なぜ警察を辞めたのか
その日、私は昇任試験に向けた面接訓練を控えていました。昇任試験とは、警察組織内において階級を上げるための関門です。昇任試験は筆記試験、術科試験、面接試験などに分かれており、3日ほどに分けて行われます。一次試験は筆記、二次試験は術科、という具合です。最終試験を合格すれば、晴れて階級が上がるのです。
警察の階級は全部で9個あります。警視総監、警視監、警視長、警視正、警視、警部、警部補、巡査部長、巡査の9個です。階級は、警察組織内でのカースト制度の様なものです。階級だけではありませんが、警察組織内での居心地の良さは、自分がどの階級であるかによるところが大きいのです。
下の階級であれば、責任がない代わりにいわゆる偉さがなくなります。それに対して上の階級であれば、責任が増してくる代わりに偉さも増してきます。一概に「階級が上の方が良くて、下の方が悪い」というわけではありません。ですが色々な意味で、巡査と警視総監とでは天と地ほどの差があります。
私の昇任試験は、巡査部長昇任試験でした。巡査から巡査部長に階級を上げるための試験のことです。一次試験の筆記試験を受けて一次試験合格者一覧に名前が載った私は、来る面接試験に合格するため、当時いた所属の幹部から訓練を受けることになったのです。
当時私は、A県の機動隊にいました。機動隊とは、自然災害やテロなど普段とは違う特殊事案が発生したときのための部隊です。交番や警察署の警察官と違い、事件や事故の処理はしません。その代わりに、有事が発生したときのために日々訓練しているのです。
私は機動隊の幹部から、面接試験合格に向けた訓練を受けようとしていたのです。実際の面接試験の際の所作や言葉遣い、それと、面接で聞かれるであろう内容に対してどのように答えるかを訓練では見られるのです。
面接試験が始まり、目の前に座っている幹部から「どのような巡査部長になりたいか」と聞かれた時、私は自分の思いの丈を述べようと思いました。私はそれまでの警察での経験から、組織には和が必要だと思っていました。ギスギスした仲を見てきましたし、そのような中で仕事をするのは嫌だと思ったのです。組織内で間柄がいい関係でこそ、仕事のやりがいがあると思ったのです。そもそも警察組織上下関係を重んじるので、パワハラが発生しやすい職場です。人間関係で職場が嫌になる人が減ればというのが私の本音だったのです。
ですので、その面接訓練で私は「ギスギスした雰囲気を作らず、和やかな雰囲気を作れる巡査部長になりたい」という趣旨のことを述べました。そうしたら目の前にいた面接官役の機動隊幹部は、私の発言を否定したのです。
「そうじゃないだろう」と言うのです。「そこでの答えは、迅速的確に事件事故を処理する巡査部長になりたい、とか、どんなに困難な事件でも粘り強く対応できる巡査部長になりたい、とかだろう」と言うのです。
どういうことか。その機動隊幹部曰く、昇任試験の面接は、聞かれたことに対して自分の思いの丈を述べるところではない、と言うのです。そうではなく、あらかじめ決まった答えを、いかに流暢に話すことができるか。警察組織内における理想の巡査部長像を、いかに正確に話すことができるか。それが面接試験だと言うのです。
私は戸惑いました。確かに誰かを、基準を満たしている者かどうか見極めるには、その組織に合っているかどうかを見なければなりません。その組織に合った事を言えば合格、合った事を言わなければ不合格、であることは予想できます。警察以外の民間の組織などでも当たり前のことかもしれません。
面接を受ける側は、採用や昇任のために、その組織に合った答えを言わなければならないのは当然でしょう。上下関係の厳しい警察なら尚更なのかもしれません。ですが、国民の手本となるはずの公務員組織・警察では、面接において自分の思いの丈を述べられる環境があるのではないか、と言う望みがあったのです。
今回の昇任試験の面接訓練のように、警察で求められるのは、いかに上の指示を的確になぞることができるか、です。そこでは「自分はこう思っている」「自分だったらこう考える」と言うような自分の意見は求められないのです。
ですが、今の社会にあるのは、答えのある問題ばかりではありません。むしろ答えのない問題の方が多く、簡単に答えが出ない問題の方が、社会ではより深刻な問題なのです。情報も人も、「自分はこう思う」と手を上げた人間のところに集まります。「自分はこう思う人間だ」と言う看板を掲げてこそ、本当のところが見えてくるのです。
それができない警察組織は、いずれ看板を掲げて意見表明を普段からしている人よりも、周回遅れになってしまうでしょう。今すでに警察は周回遅れです。今だに昭和の価値観を引きずって、我慢強い、忍耐強い、そして寡黙な人間を求めているのです。
だから私は警察を辞めたのです。「周回遅れになりたくない」、「時代から遅れたくない」、「ただ上司の指示や意見をなぞるだけになりたくない」との想いから、自由な言動ができる環境を求めたのです。
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