生物学的視点で007を見ると、格好良さの秘密がわかる

2020.09.02 (水)

最近、生物学者の本が面白くて、よく読んでいる。

 

 

生物学というのは、ある意味ずるい。その破壊力は卑怯でもある。卑怯なほど、その破壊力は見事なものなのだ。破壊力というのは、説得力の比喩だ。破壊的なほどの説得力という意味。それは、どんなに頑張ってみても、結局は僕たちは人間でしか無い。

 

 

勉強して、就職して、昇進して、固有の仕事を見つけて、スキルを上げて、家族をもって、影響力をみにつけて……なんてことを個人でどんなにやっても、結局は僕たちは生命という樹形図の一部でしか無い。

 

 

ヒトという種だし、霊長類だし、哺乳類だし、生命でしか無い。どんなに突飛なことをやろうとしても、その枠組から逃れることはできない。どんなに他の人より秀でたことをやろうとしても、その枠の中から出ることはできない。

 

 

生物学の視点から「ヒトには〇〇のような習性がある」とか「霊長類とはそういうものだよ」とか「それが哺乳類なんだよ」と言われると、否定することができない。僕たちの根底には生物としての習性が携わっているのだ。そんな根底部分から「そういうものだ」と言われるので、説得されてしまう。納得してしまう。

 

 

昨日、「007〜スペクター」という映画を見た。007という映画のシリーズがあることは知っていたけれど、実際に見たのは初めてである。

 

 

 

 

ストーリーは無茶苦茶な部分が多かったように思う。カーチェイスとか、素手での闘いとか、わざわざ敵陣に入っていくところとか、無理な設定が多かったように思う。なんか、「格好いいシーンを撮りたいからわざわざそのストーリーにした」という感じだった。

 

 

確かに映画、特にアクション映画とは、そういうものなのかもしれない。ストーリーよりも、格好いいシーンありきで作られるものなのかもしれない。自然なストーリーよりも、「こんなシーンを作りたいな」という希望があって、それに合わせてストーリーが練られていく。そういうものだと言ってしまえばそうなのかもしれないけれど、もう少しナチュラル感をだしてほしかった。

 

 

ツッコミどころ満載だった。「これってカーチェイスしなくてもいいんじゃない?」とか「わざわざ敵の根城に入っていかなくてもいいんじゃない?」とか「なんでイキナリ女と絡み始めてるの?」とか。

 

 

けど収穫はあって、「格好いい」のスタンダードを知ることができた。

 

 

あれが世の中の「格好いい」という理想のスタンダードなのだろう。ダニエル・クレイグという役者が演じるジェームズ・ボンド。頭が良くて、強くて、足が早くて、ヘリすら操縦できて、スポーツカーを運転して、スーツを着こなして、酒をよく飲んで、何より女にモテモテで。世の中でいう格好いいとは、ああいことを言うのだろう。多くの人が思い描く理想の人生とは、ああいうものなのだろう。

 

 

さて、どうしてジェームズ・ボンドが格好良く見えるか、知っている人はいるだろうか。もちろん、スポーツカーを運転するし、強いし、女にもてるから。スーツもビシッと着こなすから。

 

 

それはそうなのだけれど、生物学的な視点から見た場合の答えである。

 

 

スポーツカーを乗り回すボンド。悪者と取っ組み合って勝ってしまうボンド。女と絡むボンド。どのボンドにも共通しているものがある。「これがなくてはボンドは格好良くならない」という料理で言えば秘伝のスパイスのようなもの。

 

 

……それは余裕である。余裕があるから、人は格好良く見えるのだ。余裕がある、というものに、人は憧れるのだ。

 

 

たとえばボンドが本当に必死になってカーチェイスをしていたらどうなるだろうか。必死こいて、アタフタと敵から逃げるボンド。そんなのは、僕たちは見たくない。運転席にどかっと胸を張って座って、不敵に笑みを浮かべながら、後ろから追いかけてくる車に向かって「さあ、どうする?」なんて言いながら相手をやっつける。そんなボンドを見たいのだ。

 

 

たとえばボンドが本当に必死になって女を口説いていたらどうなるだろうか。土下座でもして、頭を地面に擦り付けて、自分との関係を相手にこいているボンド。そんなボンドは、僕たちの理想ではない。「自分にその気はないんだけど」とか「しょうがないな」なんて顔をしながら女の相手をする。そんなボンドを見たいのだ。

 

 

僕たちは、「オレは余裕だぜ」というアピールをしたいのだ。それは、動物という生命に宿された宿命というもの。ヒトとはそういうもので、霊長類とはそういうもので、哺乳類とはそういうものなのだ。

 

 

たとえば尾羽根が長いゴクラクチョウという鳥がいる。あの鳥がなぜあんな尾羽根を持つに至ったのか。だって、普通に考えれば、あの尾羽根は邪魔でしか無い。あの長い尾羽根のせいで、歩くのにも支障をきたすだろう。目立ってしまって、捕食者からも見つけやすくなる。これではまるで、自分を死に追いやっているようなものだ。

 

 

でも、長い生命進化の過程で、ゴクラクチョウは尾羽根を伸ばす選択をした。長い尾羽根をもつことが、生命進化の過程で有利だとされたのだ。進化は有利であるものにしか働かない。

 

 

それが余裕なのである。自分はリスキーなことに、尾羽根を伸ばしても生き延びてきている。長い尾羽根を持っても生存している。「それほど自分には余裕があるんだぜ」というのが、メスに対するアピールになるのだ。

 

 

生物学というのは卑怯なほどの説得力をもっており、「生物とはそういうもの」と言われると納得せざるを得ない。「そういうものか」と思わずにはいられない。ジェームズ・ボンドに感じる「格好良さ」とは「格好良さ」のスタンダードだと思うけれど、僕らがジェームズ・ボンドに格好良さを感じるのは、彼に余裕があるからなのだ。リスキーなことを余裕でやれるから、なのだ。

 

 


 

 

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