宇宙や非行や恋愛の問いに生物学的に答えると〜第三のチンパンジー

2020.04.14 (火)

 

「人間とは何か」そんな問いに答える本である。

 

 

とても興味深く読めた。本書の著者は生物学者。故に本書の中で展開される答えは、生物学的な視点によるものだった。けれど、その答えを求める問いは、決して生物学的な問いではないように感じる。つまり、生物学的でない問いに対して、生物学的に答えているのである。

 

 

これは大変な力量だ。僕も警察官の視点という「売り」を持っているので、社会の問いに警察官の視点を持って答えたいし、警察官の視点を持って答えるからこそオリジナリティーが出て、自分の存在価値が表れるものだと思っている。自分オリジナルの考え(警察官の視点)を示せるからこそ、何かしら発信するに値する。意見や考えが周りと同じだったら、わざわざ発信する必要もなくなってしまう。

 

 

けれどこれが難しい。ついつい自分の切り口、自分独自の考え、警察官の視点というのが曖昧になってしまう。

 

 

「人の影響があったのではないのか」

「誰かの受け売りではないのか。」

 

 

自分で発信していて、そう思ってしまう。

 

 

確かに100パーセント純粋な、自分の中からのみ湧き出た考えや切り口というのは無理だ。そんな芸当はできるもんじゃない。生きていれば、自分より優れた人と出会ったり、心を打たれるような他人の言葉と自然に遭遇してしまうからだ。

 

 

幼児が言葉を学ぶのと同じ。周りの人間が言葉を発しなければ、幼児だって言語を発することができない。考えを発するには、周りの人の考えに触れ、吸収することが必要。

 

 

けれど、触れた周囲の人の考えや切り口を、そのまま自分の考えや切り口として発するわけにはいかない。

 

 

周囲の人の考えや切り口を飲み込んだ上での自分なりの解釈が必要なのだ。そこに表れるのが、僕の場合は警察官の視点であってほしいと思っている。

 

 

そういう意味で、この本はとても参考になる。生物学以外の分野も含まれる問いに、生物学的に答えている。「なるほど、自分なりの切り口で答えるとはこういうことか」と思わず唸ってしまう。

 

 

たとえば第10章は「ひとりぼっちの宇宙」というタイトルになっている。

 

 

「どうして人間は、宇宙人とコンタクトをとることができないのか」という問いである。20世紀に入って、アメリカのNASAは宇宙に向けて信号を発している。人間と同程度の知性がある生物であれば、受信してくれるだろうことを期待して、地球外生命体とコンタクトをとろうという試みである。

 

 

探査機だって飛ばしている。NASAから飛ばされた宇宙探査機パイオニア10号・11号には人類のメッセージが刻印された金属板が、ボイジャー1号・2号には音声レコードが搭載されているらしい。

 

 

けれど、未だに宇宙からのコンタクトはない。NASAだって、絶えず宇宙からの信号を受信しようとしているはずだ。なのに未だに「これが地球外生命体からのメッセージだ」という確実な信号はつかめていないのだという。

 

 

この「どうして人間は、宇宙人とコンタクトをとることができないのか」なんて問いは、生物学的な問いには思えない。宇宙物理学とか、天文学みたいな問いである。

 

 

この問いに、生物学者である著者は次のように答えている。「文明が繁栄する期間は、長くはないからである」と。

 

 

宇宙というのはとてつもなく広く、そんなとてつもなく広い宇宙が無限とも思えるような数だけ存在するのが、この世である。おそらく文明を持った地球外生命体というのは存在するのだろう。しかし人類がいつまでたっても彼らとコンタクトを取れないのは、文明というのがすぐに衰退するからなのだそうだ。

 

 

たとえば地球での文明の始まりは、中東であった。ティグリス川とユーフラテス川の近くに、メソポタミア文明が生まれた。

 

 

僕はいつも不思議だった。「どうしてあんな砂漠地帯に文明が栄えたのだろう」と。テレビや教科書で紹介されるメソポタミア文明発祥の地は、茶色い砂に覆われた不毛の地、砂漠だったからである。

 

 

メソポタミア文明だけじゃなく、エジプト文明だってそうだ。エジプトは今や砂漠の国としてのイメージがある。どうしてあんな砂漠に文明が発展したのか。しかも5千年ほども前に。

 

 

どうして砂漠に文明が栄えたのか。それは、昔はエジプトが砂漠ではなかったからである。5千年ほど前、エジプトやメソポタミアの地は、緑に覆われた場所だったそうだ。草地が生えていて、砂漠とは程遠い住みやすい地域だったのだそうだ。けれど人類が農業をして、家畜を飼っていく中で、あんな砂漠になってしまったのだ。

 

 

繁栄は長く続かない。

 

 

現代でも人類は核を開発し、森林伐採を行い、他の動物を絶滅に追いやっている。自分の首を締めているので、いずれ人類の繁栄も長くないのではないかと著者は警笛を鳴らしている。

 

 

これが著者の答えだった。どうだろう。宇宙というまるで生物学とは関係のない問いに対して、うまく自分の分野から答えを出しているだろう。見事な切り口である。

 

 

他にも、「芸術とは何か」「犯罪や非行はどうやって起きるのか」「どうやって人は人を好きになるのか」なんて問いに答えている。いずれも、生物学とは関係のなさそうな問いに、自分の分野である生物学的な視点から答えているのである。

 

 

著者独自の切り口で答えているから、読んでいる方としては興味をそそられる。そんな独自の切り口に加えて、著者は知識や経験も申し分ないのだから、ただただ面白いのだ。ぜひ読んでみてほしい。

 

 

 

 

 


 

 

 

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