どうしてその行為が処罰されるのか。「倫理違反」と「法益侵害」という理由2つ〜刑法入門

2020.12.14 (月)

「どうして処罰されるんだ。何も悪いことなんかしていないのに!」

 

 

なんてことを警察官をやっているとよく言われる。これっていうのは、いきなり王手を掛けた時なんかによく言われる。警察官が犯人を捕まえるのには大きく分けて2つのやり方があって、1つはジワジワと詰め将棋のように締め付けるものと、もう1つはいきなりの王手。

 

 

詰め将棋とは、いわゆる捜査をしていって捕まえるもの。捕まえるだけの根拠をひたすら積み重ねていった末に捕まえるので、犯人から文句を言われても警察官は言い返しやすい。犯人も自分が悪いことをしていることをわかっていることが多い。捕まえればもう逃げられないことを自覚しているものだ。

 

それに対していきなり王手というのは、職務質問なんかで捕まえるもの。日常生活をしている相手に対して、あるいは日常生活を装って悪いことをしている相手に対して、「それは法律違反だよ。悪いことだよ」というのを突きつける。相手はまだ逃げられると思っていることが多い。当然、言い返してくる。「どうしてこれが悪いことになるんだ。何も悪いことなんかしていないじゃないか」と。

 

 

犯人を捕まえるには大きく分けて、捜査と職務質問の2つがあるのだけれど、相手から文句を言われたりガタガタ言われるのは職務質問の方が多いのだ。

 

 

職務質問の場合、相手からすれば急に警察官が現れたことになるのでムッともするだろうし、「まだウソを突き通せる」と思っているのだろう。けれど、相手から文句を言われたからと言って、ガタガタと言われたからといって、後ろに下るようでは警察官ではない。

 

 

警察官は警察学校で色々と無駄な時間を過ごすけれど、唯一無駄と思えない学んだことは、この気概だ。刑法、刑事訴訟法、職務倫理、柔道剣道、上下関係。警察官に必要と思われるスキルや知識を警察官になりたての時に警察学校で詰め込まれる。それらは決してすぐに血肉になるわけではない。言われて直後には頭に入らないし、机上の話なので実質的な経験があってはじめて理解できるものもある。警察学校ではちゃんと教養をしているのかと言われれば「はて」と首を傾げてしまうものである。

 

 

けれどその無駄とも言えるかもしれない警察学校の中で唯一無駄にならなかったものを上げるとすれば、気概となる。警察官は気概をもって、犯人と対峙しなくてはならない。「どうしてこれが悪いことになるんだ。何も悪いことなんかしていないじゃないか」と詰め寄られれば、堂々としてこれに答えなければならない。そんな気概を警察学校で植え付けられるのだ。

 

 

全国に警察官は20万人もいるので、一人ひとり価値観は違うし考え方も違う。けれど恐らくこの気概だけは唯一共通しているんじゃないかと思う。後ずさりしそうなときに前に出る。下を向きたくなった時に胸を張る。「気概だけは相手から侵害されてはいけない」と、どの警察官も暗黙の内に思っているのだと思われる。

 

 

そう考えると、よく警察官に言われる「負けを認めない」とか「謝らない」というのも、この気概によるものだと解される。なんだか話が脱線してしまったけれど、全国の警察官もしっかり繋がっているじゃないか。気概という共通点で繋がっている。

 

 

で、その気概を持って職務質問の際は相手に「どうしてその行為が犯罪になるのか」を説明しなければならないのだけれど、犯罪として定められているにはそれなりの理由がある。その理由が何かというと2つ。倫理違反になるか、それとも法益侵害となるか。このどちらかだ。

 

 

倫理違反

倫理違反というのには、明確な被害者というのは想定されていない。被害者はいてもいいし、いなくてもいい。被害者がいなくても「倫理違反」という視点で見ると、行為は犯罪になり得るのだ。倫理違反というとわかりにくいんだけれど、「人間が生まれ持っている」とか「人間として当然の」とか言われるものだ。「道徳」とも言う。

 

 

たとえば、人の悪口なんてのは倫理違反になる。人の悪口は、相手がいる前で言うのはあからさまに相手に不快感を与えるので悪いことなんだろうけれど、では相手がいない所で言う悪口は許されるのかというとそうはならない。

 

 

自分が友人Aと一緒にいて、Aが共通の知り合いであるBの悪口を言い始めたとする。そのときに「Bに対して申し訳ないな」とか「相手がいないからといって、悪口をいうのは良くないな」と思うはずだ。それが倫理なのだ。どうしてそれが悪いことなのか、口で説明できるものではない。人間が生まれながらに持っている善悪。それが倫理なのであって、それに違反するのが、犯罪の倫理違反という側面である。

 

 

法益侵害

けれど犯罪の倫理違反という理由は、現在において主流ではない。主流はもう1つの「法益侵害」の理由だ。被害者がいるからその行為は悪い。他の人に迷惑を掛けるからその行為は悪い。そんな論理が、犯罪として理由づけするときにマジョリティである。

 

 

というのも、これは価値観の多様化が世界の流れ、というのに理由があるらしい。今世界では国境が無くなっている。インターネットが発達し、移動手段も発達し、世界規模で交流が進んで自分以外の価値観に触れる機会が格段に多くなっている。自分の内側に閉じこもってもいられなく、自分とは違う価値観にどんどん触れられる。

 

 

交流することによって価値観が多様になるし、価値観が多様になるには寛容でなければならない。ある一定の価値観を押し付けることは、多様化、寛容性という視点からはあまり受け入れられるものではないのだ。

 

 

そもそも倫理観というのは曖昧である。人が生まれながらに持っている善悪、とは言え、そんなものが一様であるはずがない。そんな一様でない曖昧なものに従って、人の一生を左右するかもしれない警察官の「捕まえる」とか「捕まえない」という作業を、どこまでも適用できるものではないだろう。

 

 

「捕まえる」「捕まえない」という作業には相手が納得しなければならないだろうし、納得しないのであればわかりやすくて具体的な理由が必要なのだ。曖昧な倫理観では、それに耐えられないだろう。

 

 

現代は権利を主張する人が増えている。モンスター・ペアレントとかモンスター・カスタマーという言葉も存在するように、立場が強いとは思えないような人間も発言権を持ってきている。スマホによって誰もが知識にアクセスできるようになったので、ただ権威であることを示したからといって、誰もが納得しないのだ。

 

 

そんな中では、より相手に説明する機会が増える。「これこれこういう理由だから」と相手に納得させる機会が増えている。この時に頼るのが倫理観ではいまいち頼りない。「被害者」という明確な納得要因を用意できる法益侵害の方が、倫理に頼るよりも使えるだろう。

 

 

というわけで、犯罪として処罰される行為というのは、「倫理違反」であるか、それとも「法益侵害」であるかだ。誰もが納得しやすいのは「法益侵害」の方になる。

 

 


 

 

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