犯罪・非行発生の原因は、犯罪性の中和だ〜よくわかる犯罪社会学入門
「犯罪や非行をなぜしてしまうのか?」
この問いに対する答えとして、「言いわけ理論」というのがあるらしい。
世の中の人は、大人も子どもも生来の犯罪者ではない。犯罪学は、18世紀にヨーロッパで「犯罪者とはどのような人間なのか」を特定するために、統計学的な方法を用いて発達した。
「犯罪者はどのような身体的特徴を持っているのか」
「犯罪者はどのような性格をしているのか」
「犯罪者はどのような性癖を持っているのか」
そんな問いに答えようとして、処刑された犯罪者なんかの身体的な特徴の調査も行われたらしい。
しかし今現在、犯罪学と言えば、犯罪社会学が隆盛のようである。特定の個人に「どのような犯罪者としての特徴があるのか」を調べるのでは、責任を個人に押し付けてしまう。そうではなく、「犯罪とは社会が生んでいる」というアプローチが、犯罪者社会学である。
ではもっと具体的に、社会が犯罪を生むとはどういうことか。それに対する答えの一つが、この「言い訳理論」である。犯罪者は生まれたときから犯罪者になるように運命づけられているのではなく、後天的な理由で犯罪者になってしまうのである。
人間は誰しも犯罪者になる可能性がある。僕も、あなたも、誰でもである。そういう意味では、僕たちは犯罪者とそうでない者の間を漂っている漂流者とよべる。「法律なんてくそくらえだ!」という非行的な島にも上がらず、「法律は絶対だ」という遵法的な島にも上がらず、どっちつかずで海の上をフラフラしている。
でも実際に、ある人は犯罪者になってしまうのだ。漂流者は時として、非行的な島の上に上がってしまうのだ。それはどうしてなのか。どうしてフラフラしている漂流者のうち、一部の者が実際に犯罪を犯してしまうのか。非行的な島に上る人と上がらない人の違いは何なのか。
そこで出てくるのが、言い訳である。人は、言い訳の好条件が揃った時に、犯罪を犯してしまう。
自分の行為を正当化したり、うまい屁理屈を思いついたときに、非行的な島に上がる。自分の逸脱行為を正当化すること、つまり言い訳を、「非行の中和」といういらしい。非行の悪徳性を、言い訳で持って中和してしまう。という意味だろう。
それにしても中和とはうまい言い方だ。犯罪性が、意図的に水で薄められるような、そんなイメージを抱いてしまう。
言い逃れができる条件とは、罪を否定できること(自分には責任がないのだから罪に問われることはないと主張すること)、不正義の感覚をもつこと(適正な手続きによってのみ非行が公式に認定されるべきであるのに、自分のケースではそうなっていないので正義に反するという感覚)などである。
この中和は、逸脱行為の法律違反的な側面を帳消しにすることであり、これは中和の技術と呼ばれる。中和の技術も区別されていて、5種類に区別されている。
・責任の否定(自分のコントロールが及ばない、何かの力によって生じたという言い訳)
例えば、携帯電話使用の違反で捕まった際の言い訳「自分から電話を掛けたのではなく、相手から掛かってきた電話だから出たのだ」とか「大事な連絡がラインできてたからスマホを見た」
・傷害の否定(逸脱行為のへの非難は、そのこういによって誰が傷つけられたのか、あるいは、そもそも傷つけられた人はいるのか、という問いにすり変えられる)
例えば、交通違反で捕まっておきながら、「誰か迷惑を被った人がいるのか? 誰にも迷惑を掛けていないだろ?」「車なんか来ないんだから、一時停止しなくたっていいじゃないか」
・被害者の否定(逸脱行為により責任を受け入れたとしても、その被害者の主張が、状況に照らして考えれば誤りであると主張することによって、自分に対する道徳的憤慨を中和しようとする)
例えば「こんなくだらない違反で切符を切られるなんて、法律が悪い」「こんな誰も来ないところに一時停止線を書いておくなんて、間違っているんじゃないのか?」
・避難する者への非難(自分を避難する者を拒否する)
交通違反で捕まった時に警察に対して「オタクら暇だねえ、こんなことやってんじゃないよ」「お前らはいつも悪いことばっかやっているくせに、こんな時だけ捕まえやがって!」「隠れてみてるなんて卑怯だろ」「違反者を捕まえるんじゃなくて、違反を未然に防ぐのがオタクらの仕事だろ!」
・より高い忠誠心の誇示(自分が属する集団からの要請に答えるという理由によって、自分への社会統制を中和する)
交通違反で捕まった際に「オレは警察OBだぞ!」「オレは議員だぞ!」「オレは●●さんを知っているんだ」
「犯罪や非行は社会が生んでいる」という考えを持つ現代人にとって、犯罪社会学は肌に合うのではないだろうか。この本には、他にもラベル理論や環境理論など、犯罪が起きるメカニズムが、わかりやすい形で記載されている。難しい記述はなく、まさに入門書だ。犯罪や非行など、少しでも興味のある人は読んでみるといい。
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