犯罪を起こさない子どもを育てるために

2020.07.18 (土)

犯罪を起こさない子どもを育てるためにはどうすればいいのか。それには、この言葉に尽きる。

 

 

「イライラしないで優しくなりましょう」「怒りを出さないで寛容的になりましょう」だ。

 

 

どうして犯罪を起こさない子どもを育てるために、イライラしないで優しくならなければならないのか。どうして犯罪を起こさない子どもを育てるために怒りを出さないで寛容的にならなければならないのか。

 

 

簡単なことだ。犯罪とは怒りから生まれる。子どもは親から影響を受ける。この2つである。

 

 

僕は警察官をずっとやっていたのだけれど、犯罪現場に行くたびに思うことがあって、「また怒っている人がいるなあ」である。交通事故、暴行、窃盗、夫婦喧嘩、ご近所トラブル、児童虐待。いずれの現場にも、決まって「怒り」の感情が渦巻いている。

 

 

交通事故で車をぶつけた者どうしは互いに「ぶつけられたのは自分の方だ」と言い合う。暴行たとえば相手を殴った人は、怒りに行動を任せていることが多い。窃盗の犯人は、自分を捕まえた警察官に対してイライラしながら言い訳を始める。夫婦喧嘩は怒りの火種の元である。ご近所トラブルにしたって、イライラや怒りを出さなければ、それが相手に伝わらなければ、すぐに終わったのであろうが、相手に伝わってしまったために痕の残るものとなる。児童虐待も子どもに対する親の怒りであって、それは決して「しつけ」という大層なものではない。

 

 

犯罪のあるところには怒りがある。論理的に言えば、「逆は必ずしも真ならず」ではある。「犯罪→怒り」が成立するからといって、「怒り→犯罪」が必ずしも成立するとは限らない。けれど推論としては現実的なのではないかと思う。

 

 

あっちの犯罪の根本には怒りがある。こっちの犯罪の根本にも怒りがある。向こうの犯罪の根本にも怒りがあった。であれば、「どの犯罪の根本にも怒りがあるのではないか」「怒りがなければ犯罪がなくなるではないか」という考えるのも自然だろう。

 

 

というわけで、犯罪を起こさないようにするには怒りやイライラの対極、つまり優しさや寛容さというのを身に付けなければならない。ぼくはこのホームページのコラムをとおして優しさや寛容さを発揮する方法を色々と紹介しているけれど、今回は本を一冊紹介してみたい。この本を読むことによって、怒りを鎮められるのではないかと思うのだ。

 

 

セネカ「怒りについて」である。

 

 

 

 

まずこの本を読んで飛び込んでくるのは、怒りがいかに醜いかについての描写である。

 

 

不敵で脅迫的な目つき、険しい眉、れた顔、せわしない歩み、落ち着かない手、変した顔色、頻繁で激しい息。怒った者の徴も同じである。目は燃えて輝き、胸底から沸き上がる血のため、顔全体に多量の紅みが差す。唇はわななき、歯は食いしばる。頭髪は硬く逆立つ。荒く激しい息遣い。関節が折り曲げられて発する音。呻き、唸り、不明瞭な声の途絶しがちな言葉、繁く打ちつけられる手、足で叩かれた地面。興奮に衝き動かされた、怒りの激しい脅しもあらわな全身。己を湾曲させ、ふくれ上がった姿の、見るも厭わしくおぞましい形相。( 「怒りについて」より引用)

 

 

こんな怒りについての醜い描写を読ませられては、怒っている時の自分がいかに醜いか、落ち着いて見られるようになるのではないかと思う。イライラしている際の熱も吹き飛んで冷静に自分を見られるのではないか。主観一辺倒で視野が狭くなっている自分に気づき、一歩離れた場所から第三者的に自分を眺めることができるようになるのではないか。

 

 

この、「自分を眺めるもう一人の自分」を作ることが、怒りの感情を鎮めるうえでは大切なのだと思う。で、冷静な自分を作るには、怒りについての描写を読むのが一番である。客観的な視線を怒りに対して向けることができるのだから。

 

 

 

優しさや寛容さという感情を、親が子どもと接する際に発揮しなければならないのだが、その際のポイントは、「わざわざしてやる」である。子どもと生活していると、親は子どもの至らなさにイライラすることが多い。テキパキ動かない。無駄な時間が多い。親としては子どものためを思ってしてやっているのに、わかってくれない。怒りを伴って「どうしてわからないの!?」「どうしてやってくれないの!?」と思ってしまう。

 

 

けれど、これは子どもに限らず他人を動かす際のポイントでもあるのだが、自分の思い通りに事を運ぶには、自分の思い通りに相手を動かすには、具体性が必要である。手に取れるように、目で見られるように。長いものは短く、大雑把なものは細かくしてやる必要がある。「そうでなければ人は動かじ」である。

 

 

大人でさえ、わざわざやってくれなければ動かないのであれば、子どもであればなおさらだろう。

 

 

もしかしたら、「子どもに対して親が『わざわざやってあげたり手伝ってやる』のでは意味がない」と思う人もいるかも知れない。が、そこは自分と他人との明確な線引きである。自分でもない他人を動かすとは、より具体的にわかりやすいようにしてやらねば、相手にとっても行動できないものなのだ。

 

 

犯罪を起こさない子どもを育てるためには、親自身が怒りを客観的に眺められる状況をつくること。それから子どもに接する際には「わざわざしてやる」を敬遠しないこと、である。

 

 

 


 

 

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