古典を読む意義は、昆虫がケースで飼育される前を考えるのと似ている〜罪と罰(その2)

2020.07.23 (木)

けれどここに落とし穴があって、調味料の弊害である。というのも、元の野菜の味を活かすことができなくなるのだ。調味料を効かせることによって、子どもは野菜を食べられるようになる。けれど野菜本来の味を味わって食べているのかというと、そうとは言い切れない。

 

 

おそらく子どもが食べているのは、子どもが味わっているのは、醤油の味であって、塩の味であって、味の素の味、ということになるだろう。子どもは調味料によって野菜を食べられるようになったのだけれど、調味料によって野菜本来の味を味わう機会を無くしてしまったのである。

 

 

英会話教室の先生も、これと同じような事を言いたかったに違いない。

 

 

「村上春樹の作品は面白いが、私たちは本当の意味で村上春樹を理解していない」

 

 

自分は村上春樹の作品を楽しんでいると思っているけれど、それは所詮は、調味料でアメリカ人の口に合うように味付けされた作品である。アメリカ人でも読めるように英訳してある作品である。村上春樹は日本人であって、村上春樹の作品は日本語で書かれている。村上春樹独特の言い回しの妙は、文化的バックグラウンドを別にするアメリカ人には理解できない。

 

 

本来であれば、翻訳という調味料なしで味わいたいものである。余計な味付けをせず、作られた野菜そのものの味を味わう。それが「野菜を味わう」ということだろう。けれど翻訳なしでは口に入れることができない。本来の味とは別になってしまっていることを覚悟で、僕たちは料理なり文学作品なりを味わうしかないのだ。

 

 

ドストエフスキーも、翻訳という調味料があるために、理解しにくい表現になっている。けれどこれはしょうがないことで、口に入れるには、味わうには、読むには、翻訳という調味料を間に挟むしかない。

 

 

誰が話しているセリフなのかわからなくなる時があったし、登場人物の思考も理解しにくい。罪と罰にはサスペンス的要素もあったが、手放しで「面白い!」という程のことでもなかった。

 

 

ではどうして古典なぞ読むのか。

 

 

「100年前」というわざわざ時代的にかけ離れた作品を選ばなくても、現代の作品がたくさんあるだろう。しかも罪と罰は、ロシアの作品である。僕は日本人なのだから、日本人作家によって書かれた小説を読んでいればいいのではないか。どうしてわざわざ100年前のロシア人作家によって書かれた本を読まなければならないのだろうか。

 

 

どうして、翻訳して元の持ち味を薄められた作品をわざわざ読まなけれがならないのだろうか。どうして現代に生きる我々が、古典を読まなければならないのだろうか。古典を読む意義とはどこにあるのだろうか。

 

 

僕としては、「始まりを知っておく」というのが、古典を読む意義だと思っている。始まりを知っておく、のである。

 

 

というのも、古典というのは、その時代に、世の中に少なからず影響を与えた作品である。世の中に何かしらの影響を与えたのが、今も古典として語り継がれている。後の時代に生きる僕たちは、その作品の影響(面白さや凄さ)を知ることは難しい。というのも、僕たち後代の人間が生きているのは、その作品の影響がすっかり広まってしまった後の世界だからだ。

 

 

たとえばファッション史に残る大きな事件と言えば、ココ・シャネルの存在があげられる。女性服は、ココ・シャネルによって転換された。僕たちファッションの素人が見てもわかるくらい、女性服はシャネル以前とシャネル以後で分けることができる。

 

 

シャネル以前の女性服は、いわゆるドレスのようなものだった。中世貴族のお嬢様型が着ていたようなヒラヒラのドレス。そんな類のものを、ヨーロッパの女性は正装の際に着ていたのだ。このヒラヒラのドレスに対して、「そんなものは男性を満足させようとする服であって、女性のための服ではない」と女性服の転換を図ったのがシャネルである。

 

 

シャネルによって女性服はヒラヒラのドレスから、現代見られるようなフォーマルな形になった。素材もジャージのような着やすい素材をシャネルは使用した。

 

 

このシャネルの歴史を知らなかったら、僕たちは女性服がいつからこんな風な形になったのかなんてわからなかった。学校で歴史の勉強をすると、中世の女性はドレスを着ている。現代の女性に普段ドレスを着る習慣はない。いつから変わったのかなんて、シャネルの存在を勉強しなければわからなかっただろう。

 

 

古典を読むのも似たようなもので、古典を知ることによって、今の世界の前の世界を知るてがかりにすることができる。

 

 

たとえば罪と罰はドストエフスキーの作品であるが、ドストエフスキーの世の中に与えた影響の1つは、善悪の曖昧さがあると言われている。

 

 

善人はどこまでいっても善人なわけではなく、悪い考えだって持っているし、悩みに悩んで生きている。悪人だって、悪人はどこまでいっても悪人というわけではなく、善と悪の間で心揺れているものなのだ。

 

 

そんな、人間は悩んでおり勧善懲悪で世の中をハッキリと分けられるものではない、という考えが、ドストエフスキーによって世の中に広まったと言われている。そんな勧善懲悪でないストーリーは、ドストエフスキーが最初だと言われているのだ。

 

 

今、自分が生きている世界がいつ始まったのかを、古典を読むことによって知ることができるのだ。宇宙にだって始まりはある。当たり前だと思っている常識にだって、スタートしたポイントがある。その転換点から、常識は始まったのだ。その始まりを知ることが、古典を読む意義だ。

 

 

だって、その始まりを知らなかったとすれば、それほど視野の狭い事はないのではないか。それほど殻に閉じ込められていることはないのではないか。

 

 

檻に入れられているチンパンジー、ケースで飼われている昆虫、井戸の中のカエルと同じで、自分が今いる世界だけが世の中だと思っていたら、それほど可愛そうなことはないだろう。で、今いる世界の外側をのぞこうと思ったら、「いつこの世界が始まったのか」を知ることである。

 

 

僕たちは今いる世界を当たり前だと思っている。世の中には色々複雑な人間関係があって、「善人の中にも悪があるし、悪人の中にも善がある」のが当たり前だと思っている。それを初めたのが、ドストエフスキーなのだ。

 

 

古典を読む意義は、今いる世界、当たり前だと思っている世界の始まりを知ることだ。

 

 

今の世の中の転換点を知ること。チンパンジーが「いつから檻に入れられたんだっけ?」と考えることであり、昆虫が「いつからケースで飼われているんだっけ?」と思い出そうとすることであり、カエルが「いつから井戸の中にいるんだっけ?」と今の世界に疑問を持つ作業なのだ。

 

 

古典を読む意義は、昆虫がケースで飼育される前を考えるのと似ている〜罪と罰(その1)

 

 

 


 

 

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