優しさを得るための階段とは

2019.08.21 (水)

子どもの非行を防ぐには、社会から犯罪をなくすには、優しさが必要である。優しさとは、相手の身になって考える、とか、相手目線になる、とか、自分ごととして考える、というものである。つまり、相手と自分とを重ね合わせてみることなのだ。相手と自分との間に溝があるのではなく、バリアフリーな状態である。相手と自分とがフラットな間柄であって、間には壁などの遮るものが何もない状態。

 

 

自分と相手を重ねてみるにはどうすればいいのか。相手の頭の中を想像するしかない。予想するのだ。「こんなことを考えているのだろうな」とか「こんなことをされたら嫌だろうな」とか、想像するしかないのだ。では、この想像はどうやったらできるようになるのか。どうやったら、物理的には見えない相手の頭の中を想像することができるのか。その手助けになるものはある。ゼロの状態から相手の頭の中を想像することは難しい。1階から2階に上がるのも、ジャンプだけでは到底できないだろう。では何が必要なのか。1階から2階に上がるのに階段が必要なように、相手の頭の中を想像するには手助けしてくれるものがある。ゼロからではなく、そこに階段を作ればいいのだ。相手を想像する場合、それは「共通点」ということになる。

 

 

相手と自分の共通点を見つけると、相手の身になって考えることがしやすくなるのだ。相手目線で物事を見ることが容易になるのだ。自分ごととして考えやすくなるのだ。全ては共通点から始まる。磁力によって、鉄と磁石が引かれあるように、赤い線で結ばれたものどうしが引かれ合うように、共通点があると、引力が働いて、相手と自分とを重ねて考えることができるようになるのだ。

 

 

難しいことではない。簡単なことだ。同じ出身の学校、同じ趣味の仲間、同じ釜の飯を食った者どうし。親近感を持つのは自然なことだろう。それを利用するのだ。共通点を見つければ、相手と仲良くなることができる。仲良くなれば、親身になりやすく、相手と自分とを重ねて考えることがしやすくなる。

 

 

では、どうすれば共通点が見つけやすくなるのか。単純な共通点ほどすぐには見つからない。同じ出身校を期待するとか、同じ趣味を期待するとか、それではあまりにも可能性が低いままだ。

 

 

物事を抽象化して考えると、共通点を見つけやすくなる。世の中を、普段から抽象化して見る癖をつけることだ。世の中は具体に囚われている。具体的であることが、絶対的な正義のように語られる場面が多いが、そうではない。具体的とは、分かりやすいことだ。子どもが本よりもおもちゃに引かれるように、具体的なものというのは分かりやすい分、人を引き付ける力がある。具体的な事を言われれば、曖昧なことよりもイメージが湧いて、話に乗りやすくなるだろう。

 

 

でも、具体的とは、表面的でしかない。物事の本質は、常に抽象に宿る。抽象的とは、分かりにくくはあるが、本質的なのである。人間の良さは、決して目に見える外観で決まるものではあるまい。その内面にこそ、人の価値があるべきなのだ。大事なものというのは、いつも見えにくく、分かりにくく、抽象的なモヤモヤしたものなのだ。

 

 

普段、世の中を抽象的に見ると、共通点が見つけやすくなる。これは、「繋げられる」と言っても良い。抽象的に見ると、繋がりやすくなるのだ。具体的なものよりも、抽象的なものが繋がりやすいのだ。例えば哲学がある。哲学は、極めて現実的ではない。いわば机上の話に感じることが多い。けれど、それは哲学が抽象的な内容だからだ。個々の具体的な事象に当てはめようとすると、なかなか当てはまるものが見つからず、使えない。けれど、抽象的に考えると、哲学ほど世の中の出来事に繋がりやすいものはないのである。哲学では「どう人生を生きるか」なんてものが考えられているが、このような議題は何にでも当てはまるものであろう。部活の悩みも、仕事の悩みも、勉強の悩みも、クラスメートとの悩みも、全ては「どう人生を生きるか」で括ることができるのだ。

 

 

このように、物事を抽象化して見ると、個々それぞれが繋がりやすくなる。絵の具の赤色と青色を、チューブから出してそのまま混ぜようと思っても、何回もかき混ぜなければ混ざるものではない。何回もブラシでこねてこねて、ようやく赤色と青色が混ざって紫色ができるのである。

 

 

けれど、水に溶かした赤色と青色であれば、そんなにかき混ぜる作業はいるまい。軽くフッフッフッと、かき混ぜれば、すぐに紫色が出来上がる。はっきりとした具体的なものよりも、モヤモヤとした抽象的なものの方が混ざりやすいのである。

 

 

優しさとは、相手の身になって考えることである。相手の身になって考えるには、相手と仲良くなることが必要だ。相手と仲良くなるには、共通点を見つけることだ。相手と共通点を見つけるには、物事を抽象的に見る必要がある。

 

 

よって、優しさとは、抽象的な思考と極めて関係が深いのである。優しさを得るための階段とは、抽象化思考能力のことなのである。

 


 

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