優しさとは、虚数の発見のようなものである

2019.07.02 (火)

虚数ってありますよね。実際にはない数のことをいいます。虚数は、「−1の平方根は何か?」という問いに答えるものとして作られたそうです。

 

 

優しさっていうのは虚数を発見するようなものなので、虚数について説明します。

 

 

数学には分数とか、マイナスいくつとか、ゼロの概念とか、実際には手で触れない、抽象的な概念がいくつもあります。数学も初めは、具体的に触れる概念から始まったそうです。もともと数を数えるという、実生活で役立つことのために生まれた数学です。羊の数を数えたり、金貨の数を数えたり。そういう分かりやすいもの。具体的なもの。手で触れて、目で見てわかるものから始まったのが数学です。

 

 

ゆえに、初めは自然数から始まりました。1、2、3、・・。日常生活の中で考えている限りは、自然数で事足りたのです。足し算、引き算、掛け算。でも、割り算が入ってくると、これでは事足りないケースが出てきます。割り切れないケースです。8を2で割ると4になりますが、2を8で割ると、4分の1になります。答えは自然数ではなく、分数になります。

 

 

これは、「数学には答えがある」という考えに基づいており、これを数学の「完全性」と呼ばれるそうです。インド人が負の数を発見したのも、完全性ゆえにだそうです。5から3を引くと2になるが、3から5を引くと幾つになるのか。その答えを出すには、自然数の枠には収まらず、負の概念を持ち出すしかなかったのだそうです。で、今度は2の平方根に答えを出すために、無理数を持ち出したそうです。

 

 

ルネサンスの頃、数学者は、この世に存在する数はすでに全て発見されたものと決め込んでいて、数とはどれも、ゼロの両側に無限の彼方まで伸びた数直線上に乗っていると考えたそうです。整数は数直線上に等間隔に並んでいて、正の数はゼロの右側に無限に続き、負の数はゼロの左側に無限に続き、分数は整数の間にあって、無理数は分数の間にあって。

 

 

でも、16世紀に今度は別の疑問が持ち上がります。平方根を研究していたイタリアの数学者、ラファエロ・ボンベリが答えのない問いを見つけたそうで、それが「−1の平方根は?」だそうです+1も、−1も、平方すると答えは1になります。−1の平方根に答えはないのでしょうか? でも、数学に完全性を求めるには、答えがなければなりません。その答えが、虚数なのです。√−1=iです。で、iを作ると2iも作らざるを得なくなりました。i+iが考えられ、その答えが必要だからです。これは、−4の平方根でもあります。2分の1iもあります。これは、iを2で割った結果です。このように、これまでの実数1つ1つに対応する虚数が出来てきます。虚の自然数、虚の負数、虚の分数、虚の無理数、全てが存在することになります。

 

 

しかしこれでは、実数の数直線上に虚数の居場所が見られません。ここで数学者たちは、この難局を乗り切るために、虚数の数直線を考えました。これは、ゼロのところで実数の数直線と垂直に交わる数直線です。こうして数とは、一次元の直線上ではなく、二次元の平面上に乗ることになりました。純実数は実軸上、純虚数は虚軸上、実数と虚数を合わせた複素数(例えば、2+1iとか)は、数平面上にあることになります。

 

 

こうして発見された、想像上の数(イマジナリー・ナンバー)と名付けられた虚数ですが、初めは抽象的な存在だったのかもしれません。ですが次第にこれが、なくてはならないものになってきました。それほど抽象的なものではなく、使える具体的なものになってきたのです。物理の分野では、現実世界で見られる現象を説明するのに、虚数はなくてはならない存在になっていきました。振り子の振動運動を解析・計算するのに、虚数はなくてはならないものだそうです。数学者も、かつては解けなかった問題を、虚数を使うことによって解くことができるようになりました。虚数は数学に、新たな次元をもたらしたのです。

 

 

優しさってのも、これと同じようなものです。抽象的な世界を見えるようになることが優しさです。現実にはっきりしているものに囚われることなく、はっきりしない価値観を想像することです。例えば、優しさってのも、人生の選択肢のうちの一つでしかありません。席をゆずるかどうか、ゴミを拾うかどうか、相手のために協力するかどうか、それぞれ人生の選択でしかありません。どっちを取るか、です。大抵、優しくない方を選択したほうが、「自分のためになる」と思われがちです。席を譲らない、ゴミを拾わない、相手に協力しない、全て自分の価値観を優先した結果です。

 

 

確かに自分の価値観を選びやすいんです。だって、自分の価値観ってのは具体的に分かっているのですから。けれどそこで、見方を変えてみるのです。はっきりしたない、相手の価値観を想像するのです。席を譲ったらどうなるか、ゴミを拾うってのはどうなんだろう、相手の立場はどうか、とか。そうすると、両方とも大した違いはないことに気づくでしょう。

 

 

「自分以外」っていう抽象的な見方をプラスすることで、それまでとは違う次元を見ることができるようになるんです。それが抽象を意識するってことです。自分勝手に陥ることなく、自分の価値観しか見られないような具体に囚われることなく、です。

 

 

抽象をつかむこと、自分以外の視点を大事にすること。それっていうのは、虚数っていう現実にはない抽象的なものを作って次元を増やしたようなものです。抽象的なものをプラスすることで、それまでには見えなかった積あが見えるようになるんです。

 

 

優しさってのもそれと同じです。自分以外の価値観っていう抽象的なものを意識するようになることです。次元がプラスされて、違う世界が見えるようになります。

 


 

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