思考力を鍛える際にメタファーを使う

2020.06.06 (土)

「日本語のレトリック」という本があって、この本ではレトリックを「あらゆる話題に対して魅力的なことばで人を説得する技術体系」と定義し、「擬人法」や「倒置法」や「文体模写法」など30コの代表的なレトリックを紹介している。

 

 

レトリックの中でも比喩はレトリックを代表するもので、その中でも隠喩は「比喩の女王」として紹介されている。その隠喩を紹介する文章の中に、「人生観とは隠喩感です」という言葉がある。「隠喩は、言葉の飾りではなく、思考そのものとなる」のだそうだ。

 

 

隠喩とは別のなにかに見立てるものである。例えば「うちの女房は鬼である」と言った場合、女房が本当に鬼なわけではない。「怖い」という共通点が両者を引きつけて、見立てることを可能にする。例えば「俺の部屋はゴミ溜めで‥」と言った場合、部屋が本当にゴミ溜めなわけではない。「汚い」という共通点が両者を引きつけて、見立てることを可能にする。同じように、「あの人は本の虫だから」と言った場合、その人は本当に本の虫なわけではなく、「本がなければ生きていけない」という共通点が両者を引きつけて、見立てることを可能にするのである。

 

 

この隠喩は、説明するべきものが抽象的な時に、特に威力を発揮する。抽象的なものを説明しなければならなかったり、それに対して自分の意見を言わなければならなかったり、それをテーブルの上において議論しなければならなかったり。そういった場面で、隠喩は実力を見せてくれる。

 

 

例えば「人生」について自分の意見を言わなければならないときに、「別れ道がいくつもあって‥、自分で決めなければならなくて‥」なんて言っていては、とてもとても言い表せるものではない。聞いている方も「つまりどういうことなの? 一言で説明して」と思ってしまう。言う方としては、キチンと言おうとするのだが、そうするとどんどん説明が長くなって、言葉が薄まって話が曖昧になってしまう。

 

 

だから、具体的な一つのイメージをドンと「コレです」と前に置くのである。誰もがイメージしやすいもの。相手にとっても身近であるもの。そうすることで一つの目安ができるので、その目安にそって聞いている方も後に続く言葉を聞いていけば理解しやすいだろう。

 

 

面白いのは、何に例えるかが人によって違うことである。もしかしたら、人生を「旅」に例える人がいるかもしれない。そんな人は、別れ道があったり、一期一会の出会いがあったり、そんな人生を送ってきた人だろう。もしかしたら、人生を「舞台」に例える人がいるかもしれない。そんな人は、人前に立って一瞬一瞬のぶっつけ本番を経験して来た人なのかもしれない。

 

 

隠喩には、個性が表れるのであって、「その人にはこう見えている」という、その人のものの見方、思考が表れるのである。

 

 

最近、巷では思考力を重要視する傾向がある。「自分の頭で考える」ということが盛んに叫ばれている。今の日本社会は学歴社会だとして、「どうしたら学歴社会を崩せるのか」ということを皆んなが考えている。学歴で人の価値が決まって、その人の人生が学歴で左右される、なんていう社会はあんまりだというのだ。

 

 

「学歴社会がどう」ということについては難しい問題なので今は触れないでおくが、覚えることよりも考えることに重点が移ってきているようだ。詰め込みよりも、その場で頭を回転させて答えを導き出すような、そんな頭の使い方が求められている。

 

 

思考を鍛えるのに、メタファーを鍛えてはどうかというのが、僕の意見である。目の前にあるものを他の何かで説明するには発想力がいる。うまく例えをつくるには、普段から頭の中にストックが無ければならないし、例える先に発想を飛ばすようなパイプを通すような力が必要である。

 

 

「あ、これは〇〇に似ているな」とか「あ、これは〇〇と一緒だな」という連想である。

 

 

メタファーと似たものにアナロジーというのがあって、これは類推とか連想と訳される。メタファーとアナロジーは違うものではあるけれど、ハッキリと線引きができるわけではなく、大方の方向性に違いがあるだけだ。

 

 

アナロジー思考という本があって、これにはアナロジーが活躍するのは、他人への理解、自分への理解、発想の3つの場面のときだという。自分への理解を深めるために、物事を他の何かに見立てるという発想は必要なのだ。

 

 

相手に説明する時にメタファーは活躍すれど、その時に実は自分の理解にも役立っている。自己理解への階段になる。自分を見つめることは難しいので、何かをとおしてしか自分は見られないが、メタファーが自分を写す鏡になる。

 

 

普段から、メタファーを使って物事を説明する癖をつけよう。説明のときでもいいし、説明はしなくても何かしらの雑談のときでもいい。自分の話の中にメタファーを入れるのだ。そうすれば相手にもわかりやすい説明になるし、自分の理解にもなる。

 

 

メタファーは思考そのものなので、思考をこねくり回すのに、メタファーが役立つのである。

 

 

 


 

 

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