亀が飼育ケースから抜け出す方法と損得勘定の人生観〜メタファー思考

2020.07.13 (月)

 

 

構造主義的視座によると、僕たちは構造の中で生活していて、この構造から抜け出ることはできない。僕たちは社会の中で過ごしている。ある時代、ある地域に存在する社会集団の中に必ず属していて、この「どこかの社会に属している」から逃れることはできない。

 

 

僕たちの基本的な考え方、ものの見方、感じ方は、その社会集団が決定してるのだ。僕たちは、僕たちが思っているほど自由に、あるいは主体的に者を見ているわけではない。僕たちは見せられている。自分たちが属する社会集団が受け容れたものだけを。選択的に。

 

 

自分の属する社会集団が排除してしまったものは、そもそも僕たちの視界には入らない。社会が排除してしまったものを僕たちは感じることはできない。それを考えることもできない。触れることもできににない。あったとしても認知することができない。

 

 

‥とまあ僕たちはこんな社会集団の中で過ごしているわけで、実は動物がオリの中で飼われているのと同じなのである。動物はおそらく、狭いオリの中を「世界」と思って過ごしていることだろう。オリの外にもっと広い世界があるのを知らず。

 

 

僕は家で亀を一匹飼っているが、この亀は僕がエサを与えたときにだけ食事をすることができる。僕は米粒ほどの緑色のエサを毎回数粒ほど与えるけれど、別にエサをそれに限定する必要は、僕にとっては無いわけだ。ただ、そのエサが家にあったからそれを与えている。

 

 

けれど亀にとっては、そのエサが絶対なのだ。亀に選択権はない。僕が飼っている亀にとって、エサとは米粒ほどの毎回数粒ほど天から降ってくる緑色のものであって、それを亀はエサとして認識している。亀はそんな時々エサが天から降ってくる四方30センチほどのケースの中を「世界」だと認識しているに違いない。外にもっと広い世界があるにも関わらず、もっと美味しいエサがあるかもしれないにも関わらず。僕という、大きくていわば社会のような存在が選択的に、亀に世界を認識させている。僕が選んだエサでなければ、亀は認識することができないのだ。

 

 

人間も亀と同じで、社会から選択的に見せられている。人間が自分たちの社会の外側を意図的に見ることは難しい。けれど、もしも見ることができるのであれば、それはメタファーを操作することによって、かもしれない。僕たちが普段使っている、口に出している、文章に書いているメタファー。これを変化させることによって、今までよりも違った世界を見ることができるのかもしれない。

 

 

というのも、メタファーとは僕たちの世界の認識そのものだからだ。元は世界を認識するための便利な方法としてメタファーを使い始めたし、発展させていった。たとえば僕たちは、人生のことを「道」にたとえて思考を膨らませたりする。目玉でないのに「目玉焼き」というし、メロンが使われていないのに「メロンパン」という。でもいつの間にか、僕たちは自分たちが作ったメタファーによって縛られるようにもなった。

 

 

たとえば人生を道にたとえることがあまりにも一般的になってしまったので、人生を道以外の角度から見ることができなくなった。スタート地点があって、途中経過が会って、浮き沈みがあって、出会いや別れが会って、目的地があって‥。人生を道のように見てしまっている。道のような人生観から逃れることができないでいる。というか、「人生を道として見ていることが当たり前になっている」ということを不思議にすら思っていない。

 

 

僕たちの周りにあるオリを破って違う角度から、あるいはもっと広い視座から世界を覗くには、メタファーを違う形で使うことが有効だと言える。

 

 

「『時間』は計量思考に基づく概念である」(本文より引用)

 

 

僕たちは、「時は金なり」に縛られている。本来は概念でしかない時間を、あたかも計量できるお金のように考えている。確かに時間をお金と考えることによって、僕たちは時間についての思考を膨らませることができるようになった。時間を、お金と同じように有効活用できるようになったし、残高を考えて人生を設計するようになった。

 

 

けれど、時間をお金と考えることによって、どこか損得勘定によって時間を見るようになったのだ。時間を数値で計り、「時間を浪費した」だの「時間を節約した」だの言う。どこかデジタル的で、白黒が明確で輪郭がはっきりとした時間概念の中で生活するようになった。常に何かに追われていて、「得をしなければならない」「損をしてはいけない」という感覚で生きている。

 

 

そんな、せわしなく過ぎていく生活を打破するには、そんな世界観を取り除き、時間というものをもっとやわらかい、親しみのわく対象として生活してはどうか。そうすることによって、デジタル的に過ぎていく時間を、落ち着いた目で見られるのではないか。これまでのようにただただ過ぎ去っていくものとして見ず、違う角度で見られるのではないか。

 

 

メタファーを変化させることで、オリの外を見られるようになる。

 

 

 


 

 

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