現代文のわかりにくさは「あたりまえ体操」の面白さ。論理的に考えることの功罪〜よくわかる現代文
思わず「COWCOW」を思い出してしまった。
「よくわかる現代文」という本を読んでいる。書店の高校受験コーナーで買った本だ。「久しぶりに問題を解くと、どの程度解けるのだろう」「果たして今なら解けるのだろうか」あるいは「今でも解けるのだろうか」という意気込みで買った。
それと、読解問題の例として、読み慣れた文が載っていたからだ。夏目漱石の「こころ」と、中島敦の「山月記」。自分としては深く読めていたつもりだけど、「自分の読みは高校入試の問題でも通用するのだろうか」と、力試しをしたくなった。
さらに、国語の先生の解説を読んでみたかった。こういう本には、肩書のある国語の先生の読解方法が載っているのだけれど、そんな由緒正しい読み方を聞いてみたかった。同じ文章でも他の人が読めば読解して内容は違ってくる。そんな他人の読解を聞いてみたかった。
読書会のような気持だった。「他の人はどういう感想を持っているのか」「他の人はどう読むのか」を知ることができる。わざわざ読書会に参加しなくとも、参考書を購入するだけで同じ本に対する他人の感想を聞くことができるのは得だと思った。
買ってみたて、自分の読解の方は「まずまず」といったところだった。
けれど読解ではなく、他のところに面白みを持ってしまった。
この本は
第一章 現代文読解のための基礎知識
第二章 ジャンル別読解講座(1論理的散文の読解、2文学的散文の読解、3散文の読解)
第三章 漢字・語句・近現代文学史
という構成になっている。
第二章のジャンル別読解講座が本論で、 第一章の現代文読解のための基礎知識は、第二章のための足固めといったところ。第一章で基本的な現代文の解き方を説明し、それを実際の問題に当てはめて説明しているのが第二章。
第一章で現代文の読解方法を説明しているのだけれど、「なぜ現代文がわかりにくいと言われているのか」の意味がわかった気がした。
それは、芸人のCOWCOWを思い出してもらうと伝わりやすいと思う。
「あたりまえ体操」というのを聞いたことがあるだろうか。もう5年以上前になる。COWCOWのネタで、「あたりまえ体操」というのが流行った時があった。普段、僕らが何気なくしている動作や効果を因数分解して歌に乗せる、というネタである。
たとえば「右足を出して左足出すと〜歩ける!」とか「両足の膝を一緒に曲げると〜座れる!」とか。これをラジオ体操のような音楽に乗せる。
これの何が面白いのかというと、「そんなことかい!」とか「当たり前じゃないか!」というツッコミをしたくなるからだ。「右足を出して左足出すと〜」の段階では、何を言っているのかわからない。何のことについて歌っているのかわからない。
「何のこと?」「それって何のことを言っているの?」という疑問や興味を引っ張って引っ張って、答え合わせ。「歩ける!」というセリフがその後に来て、「なんだ、そんなことか」と落ちる。
つまり僕が言いたいのは、考えなしにやっているようなこと、いかに「そんなの当たり前!」と思えるような簡単なものでも、いや簡単なものだからこそ、因数分解されるとこんがらがってしまうのだ。何のことを言っているのかわからなくなる。
この本の第一章に、接続語についての記述がある。空欄補充問題で接続語を選ぶときの、選ぶ方法を記載している。どうやって接続語を決めたらいいのか、頭の中の思考のめぐりを論理的に説明しているのだ。
説明しているのは思考のめぐりなので、普段は目に見ないし、手にも触れないもの。本を読んでいればわかると思うけれど、思考の記述ほどわかりにくいものもない。哲学なんかが分かりにくいものの代表だと思う。哲学がわかりにくいのは、「他人には理解できない思考という主観を、他人にも説明しようとしている点」にある。
空欄に当てはまる接続後の選び方なんて、「なんとなく前後の関係から推測する」以外の何物でもないのだろうけれど、それでは答えにならない。わかる人がわからない人に解き方を說明するには、わかる人の頭の中を說明するしかないのだろう。
けれど、普段何気なくやっている頭の中の思考のめぐりを、わざわざ説明している。「読むと余計にこんがらがるのではないか?」と思われる内容だ。接続詞の選び方について、こう書かれている。
1 接続語の前後の文章を読み、だいたいの論旨を理解する
↓
2 接続語が、単語や語句のような短い言葉を結んでいるのか、分や段落のような長い内容を結んでいるのか、前もって予想し判断する。
↓
3 接続語が、あらましどのような前後関係を表しているかをつかむ。
↓
4 1で理解したことを頭において、接続語の前後の内容をつかみ、3で理解したことと照らし合わせて、前後の関係をつかむ。
参考書を読もうとするのは問題が解けないからだし、この本の読み手は現代文を解くのが苦手な人だろう。この本を読んで、読み手が「なるほど、そうやって思考を巡らせるのか!」と合点がいくのが、書き手側の理想である。
しかるに、上に書いたこの思考の巡りを読んで合点がいく人がいるのだろうか。余計にわからなくなるだろう。
プラモデルのようなもので、詳しくされると余計にわからない。プラモデルも、説明書を読むと余計にわからなくなる時がある。直感で「あそこにハメればいいんだろうな」と思うことでも、「念のため」と思って説明書に従って作ろうとすると、途端に「作る」という行為の難易度が上がる。まるでジュースのプルタブを知らない人に、プルタブの開け方を説明するときのように。
おそらく現代文の問題というのは、普段当たり前にやっていることだからこそ、說明するのが難しいのだろう。食べ物を食べるときのように、自転車に乗るときのように、職場に行って挨拶をするときのように、現代文を解くというのは当たり前の行為なのだ。
直感的な行為なので、あたりまえ体操のように、わざわざ言葉にして説明しようとすると余計にわかりにくくなる。
国語を「論理の教科だ」という声がある。「国語は直感で解くものではない。論理で解くものだ。だから誰でもできるようになる」という論法を、国語論理派は展開する。これも当たり前なのだ。普段やっていることでも因数分解すれば論理的に說明することはできる。
「論理的だから再現性がある」「論理だから誰がやっても同じ答えにたどり着く」「論理だから誰でも解けるようにある」という主張はわかるけど、そこはあたりまえ体操と同じだ。論理的に説明しようとすればするほど難しくなる。わかりにくくなる。
たしかに現代文は論理の教科かもしれない。けれど、論理的に説明しようとすればするほど、普段やっている「当たり前」とはかけ離れていいくようだ。
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