問題提起に個性はあるが、解決方法はどれも同じ

2019.11.01 (金)

何か問題を提起して、その問題を解決しようとすると、解決方法というのは誰が考えても同じような感じになるのかもしれない。となると、個性を出せるのはどんな状況から問題を見つけたのかって所になる。

 

 

ついさっき本屋を歩いてきたのだけれど、子どもの非行とか少年犯罪とか子どもの虐待とか、その辺りの文庫本が一箇所に並んでいた。コーナーができていたのだ。岡田尊司さんの「愛着障害」とか、宮口幸治さんの「ケーキの切れない非行少年たち」とか、杉山春さんの「児童虐待から考える」とか。そんな感じの本が並んでいた。この中で私が読んだことがあるのは、岡田尊司さんの本だけだった。この著者の本は面白かった。共感できるところがたくさんある。読んでいて「ああ、そうかも」と納得してしまう部分が随所にあった。たしかこの著者は、精神科医だったっけ。

 

 

おそらくここのコーナーに並んでいる著者は、それぞれ自分独自のバックグラウンドを持っているのだろう。宮口さんも岡田さんと同じように精神科医ではあるが、細かく見ていけば得意分野も違っているのだろうし。それぞれ違う人生を歩んできて、別々の風景を見てきたのだ。それぞれ別々の患者を診てきたのである。つまり、ここのコーナーに並んでいる本は、同じ分野で問題提起をしているのだが、その問題提起のきっかけは別々なのである。

 

 

が、「じゃあ、どのように解決するのか」という段階になると、おそらくどれも似たような内容になるのだと思う。「家庭での教育を正すために、子どもの親を教育しなければならない」とか、「早い段階での対策が必要である」とか、「自己肯定感」とか。結局は、対策はそんなところに収まるのだと思う。

 

 

ある一つの分野で多くの人が問題提起していて、多くの著者が本を出版している。その多くの著者はそれぞれ別の分野で活躍してきた人たちで、それぞれ自分が見てきたものから問題を提起しているのだ。そこまでは幅が広いのだが、いざ解決の方法となると、結局は同じようなものに絞られるのである。入り口は広く、だが出口は狭く、である。幅の広い分野で問題定期されているにも関わらず、解決の方法はというと、似たようなものしか作れないのである。

 

 

子どもの非行に限らず、どの分野でもそんな感じなのだろう。例えば新しい働き方について。普通の会社員ではなくて、これまでにない働き方を模索、あるいは実践している人たちがいる。で、「それに続け」とこれまでにない働き方を勉強しようとする人たちがいる。新しい働き方に関する本も、本屋のビジネス本コーナーの大部分を占めている。それらの本の著者は、色々な個性を持った人たちだ。元大手の役員や、元公務員や、フリーターや、バンドマンや。そんな、色々なバックグラウンドを持つ人たちが、新しい働き方という分野で本を出している。

 

 

が、賭けてもいいが、出口はそれほど違うものではないだろう。入り口は広く、だが出口は狭く、である。新しい働き方を実践するための方法というのは、誰もが同じようなことを言っているのだろう。「好きなことで」とか、「リスク管理について」とか、「インターネットやSNSを使って発信を」とか、「モチベーションが大事」とか、「時間管理も」とか。そんなところなのだろう。幅の広い範囲で問題提起がされているにも関わらず、それでも解決策というのは限られたものである。元大手の役員も、元公務員も、フリーターも、バンドマンも、問題提起のきっかけは別にしても、解決方法というのは似たようなものなのだ。

 

 

現代においてもほとんどの問題は、すでに哲学者が考えていることだったりする。いくら我々がそれぞれの問題の解決方法を考えようと、その答えは古代ギリシャの哲学者がすでに解決済みのもの、あるいはそでに深く考えられているものだったりする。別にそれが悪いとは思わない。本というのはそういうものなのかもしれない。不特定多数に向けて書かれている、本というのは、問題の解決方法は、抽象的な内容で止まってしまうものなのかもしれない。個別のセッションでもないので、具体的な問題解決方法を提示することまではできないのだろう。

 

 

ならば、それぞれの著者の個性というのは、問題提起のきっかけの部分になければならない。どんな分野で問題提起をしようと、それはすでに哲学者が解決済みのものだったりする。だから、問題提起のきっかけの部分で個性を出そうとするのは、仕方のないことなのだろう。自分の具体的経験の上に、問題提起は成り立つ、そしてそこから抽象的な本質を見つけ出しって、再度、具体的な問題解決方法を説くことになっている。が、基本的に個性的な問題解決方法というのは、周りを見渡しても殆どない。どの本も、解決方法については似たようなことを言っている。だから、我々が競うのは、「どこから問題提起のきっかけを掴んだか」ということになるだろう。問題の出口ではなく、入り口で個性を競うしかないのである。

 


 

 

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