無理の構造 〜 子どもの非行を防ぐためのブックレビュー
本書は、社会にはびこっている理不尽さのメカニズムを可視化する本です。可視化することによって、理不尽さからくると考えられる無駄な努力やストレスを無くそう、というのが本書の趣旨になります。
私たちがよくしている間違いや勘違いは、「世の中の事象の多くが対称的である」というものです。ベンチャー企業と伝統的大企業、若手とベテラン、自分と相手、理想と現実、具体と抽象、などなど。ですが、これらは決して対称的などでは無いのです。
例えばベンチャー企業は、いずれし社員が多くなり、社会的責任も出てきて、成功や失敗を経験して大企業へと成長します。ベンチャーから大企業へは一方通行で不可逆的です。
ですので、大企業病と言う言葉がありますが、これは何か特殊な状態に企業がおちいっている事を言うのでなく、ある意味当たり前のことと言えるのです。
「会議のための会議」の様な無駄が多くなってきたり、意思決定が遅くなったり、形だけのルールが多々存在していたりです。ですから、これに抗おうとして伝統的大企業の中で若手が理想的な事を言っても、叩かれるのは当たり前ともいえるのです。
このことを理不尽というのではなく、これを当たり前のことだと言うのが著者の主張です。上流から下流に水が流れる様に、常に物事は変化していくのであって、逆戻りはあり得ません。年季の入った大企業が、ベンチャー企業のごとく振る舞うことは無理なのです。
ですが、だからと言って大企業病がいいと言うわけではありません。意思決定は早い方がいいですし、腰は軽い方がいいはずです。大企業病の無い場所で働きたいのであれば、会社を乗り移るしかないのです。流れに逆らう様な事は、無駄な努力に終わります。いくら大声で若手が理想を語ったところで、ベテラン幹部に声が届くはずもないのです。
本書には、この様な面白おかしい、無理の構造が多く記載されています。
・実際にフィールドに立つプレーヤーと、外野で野次を飛ばすサポーター
・「掛け声だけでなく、実際に行動することが重要だ!」と言う掛け声
・自分の考えをSNSで述べる人に対して、「そうでない場合もある」「そうとは限らない」と言うアンチ
・自分が話して気持ちがいいのは愚痴や自慢だが、聞いていてイライラするのも愚痴や自慢
・顧客のニーズを越えた、自己満足の新機能
・「わかっていない」事をわかっている人と、「わかっていない」事をわかっていない人
私たち親も、子どもに対して自分の子ども時代のことを棚に上げて「勉強しろ」と言いがちです。ですが、いくら外側から子どものやる気の扉を開けようとしたところで、その扉は開きません。子ども自らが「勉強した方が楽しそうだな」と思って、初めて扉は開くのです。
子を持つ親にとっても、大変勉強になる一冊です。
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