警察官はなぜ生年月日を聞くのか
交番に言って何かしらを相談したり、あるいは警察官から職質をされたことがある人は経験があると思うけれど、警察官から生年月日を聞かれて不思議に思ったことはないだろうか。「生年月日は?」とか「それと‥生年月日は‥」とか。
確かに警察官はよく職質相手だったりなんなり、事あるごとに生年月日を聞くのだけれど、「どうして生年月日を聞くんだろう」と疑問に思ったことはないだろうか。
これは「どうして警察官が詳しく個人情報を聞くのか」ということになるんだけど、「個人を特定する」というハードルが、警察官は警察官意外の人間よりも高いのだ。
警察官意外の人を、「一般人」として書く。僕は本来、この「一般人」という言い方が嫌いである。どこか差別的で、相手を下に見ているような雰囲気を出す言い方だからだ。使いたくはないのだけれど、他に良い言い方も見つからないので使うことにする。
警察官にとって個人を特定することは、一般人が個人を特定するよりもより厳密さが求められる。だから、警察官は個人情報を執拗に聞いて回るのだ。
警察官は、氏名、生年月日、住所、職業、電話番号の5つを、個人を特定するのに必要とする。ここまで確認してはじめて、個人を「その人」として特定することができるのだ。
たとえば病院に行った時に、「念のため、氏名と生年月日を言ってください」と言われたことがないだろうか。あれは、患者を他の患者と取り違えないために質問しているのだ。質問されて答えた内容と、あらかじめ病院側が持っていた内容とが違うようであれば、患者を取り違えている可能性が高い。
たとえば銀行口座の暗証番号を忘れて、電話窓口に相談した際に、窓口担当から「念のため、氏名と生年月日を言ってください」と言われたことはないだろうか。あれも、個人を個人として特定するためである。銀行口座なんかの場合、他人が「暗証番号を忘れた」と偽って暗証番号を作り変えるケースが考えられる。個人を個人として間違いなく特定するために、氏名と生年月日を言ってもらって、本人かどうかを確かめているのだ。
警察官が個人情報を聞いているのも、これらと同じである。病院や電話窓口で「氏名と生年月日を‥」などと聞かれることと、警察官が個人情報を細かく聞くことの趣旨は変わらない。個人を個人として特定するためである。
ただ、警察の場合はこのハードルが他よりも高いのである。一般人よりも高いのである。氏名と生年月日だけではまだ足りない。住所、職業、電話番号、それらをすべて合わせて初めて「ああ、確かにあなたは〇〇さんだね」と特定することができる。そこまで聞いてはじめて警察官は安心して話をすすめることができる。
警察官が個人を特定する際のハードルが高いのは、もちろん法的なことが絡んでくるから。警察官は人一人を拘束することができる。考えてみてほしい。この「人一人を拘束することができる」ことが、どんなに突飛なことか。
というのも、普段、僕たちは自分たちが自由であることを知っている。日本は自由な国だし、現代はほとんどの国が自由で成り立っている。やることなすこと、全て他人から指図されて生活するなんて、そんなことが自分に降りかかるなんて、誰も考えられないだろう。
確かに「仕事に行く」とか「学校に行く」とか「子どもの世話をする」なんていう自分に課せられたものは、誰もが持っているかもしれない。けれどそんなことは、自由に対する侵害にはならない。仕事も学校も子どもの世話も、本人が望んだことだ。
仕事がない日には自由にしていていいし、学校が終わったら友だちと遊んでもいいし、子どもの世話だって手を抜くことはいくらでもできるし。しなければならないことはあっても、それが人生そのものをがんじがらめに縛ることは無いはずだ。
コロナウィルスが問題になっているが、いくら「コロナウィルスの危険がある」からといって、政府はいつまで立っても「休業要請」しかすることはできない。強制的に休業をさせることはできない。相手の意に沿わないことを強制することはできない。自由主義という現代社会において、相手の自由を規制することは、これほどまでに難しいことなのだ。
そんな現代日本において、警察官はやろうと思えばいくらでも個人を拘束することができる。警察の権限は、いわば超法規的措置であるから、個人を間違えることは許されない。だから、個人の特定に関して厳しいのだ。個人を「ああ、あなたが〇〇さんですね」と言って特定することに、高いハードルを課しているのだ。
身体を拘束されておいて、いわゆる逮捕されておいて「あやっ、間違えましたぁ。てへ」なんてなったのでは、人生がめちゃめちゃだ。僕たち一般人だって、行政や特に警察官が間違いを侵すことには敏感になっているはずだ。警察の間違いなんてのは攻撃の格好のネタである。それがわかっているから、警察官も高いハードルを備えなければならない。
警察には、個人の自由を奪うという特別の権限が付与されている。この権限の行使に間違いは許されない。だから、個人特定のハードルが高いのである。氏名、住所、生年月日、職業、電話番号のすべてを聞いてはじめて「ああ、確かにあなたは〇〇さんですね」となる。警察官は、話をする相手の生年月日をいちいち確認するのだ。
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