説明ベタの人には被覆性法則モデルがおすすめ〜科学哲学
AirDropという機能がある。
これは、アップル製品に備えられているファイル共有機能である。サーバーを介さずに、ワイファイとブルートゥースで画像やテキストを近くにいる人間と共有できる。当たり前だが、送信したファイルと受信したファイルに違いはない。送信したものを、過不足無く受信させることができるのだ。
他人とのコミュニケーションも「このくらい楽だったらいいのに」と思う。クリックひとつで過不足無く送受信ができる。いちいち面倒な「口で説明」なぞ抜きにして、クリック一つでオッケー。が、現実はそうもいかない。自分の抽象的な考えを具体化させ、相手の思考程度も想像して、相手の思考程度に引っかかる程度の抽象度(具体度)を選択して、うまく言語化しなくてはならない。非常に面倒なのだ。
さらに、この他人への説明が面倒だからといって、この行為を避けて通ることはできない。生きる、あるいは生活するとは他人との共同作業である。忙しい毎日の中で行きていると「無人島に一人でいる自分」を想像したくもなるが、そんなのは現実逃避でしかない。
僕らがいる場所は、南国のヤシの木の生えた無人島のビーチではなく、コロナウィルスやらオリンピックやら、子育てやら人生キャリアやら多種様々な問題が混合し、しかも目の前に待ったなしで突きつけられている現実世界なのだ。他人への説明無しでは生活できない。
他人への説明で損している人はいないだろうか。僕もその一人で、他人へ自分の考えあるいは、物事を説明しようとしたところでなかなか伝わらない。だから僕は結構他人とは距離を置いて生きている人間だ。他人との距離を近くすると、相手にいちいち関わらなければならないし、その中で苦手な「説明」という作業もしなければならないし、何かと煩わしいのだ。
その点、距離をおいて「他人は変えられない」なんてすました態度を取っていれば、相手と煩わしいコミュニケーションをする必要もない。自分の考えや価値観を相手に押し付けることもないので、このことを「優しさ」と捉えたり「寛容さ」と捉えたりすることもできるが、他人とのコミュニケーションから逃げているだけ、とも言える。
さて、本書には面白い章があって、第3章である。「どうすれば科学的説明ができるのか」「科学的説明とは何か」ということが記載されている章。「科学的説明」に限らず、「科学的」とつくものは、ある種の魅力を発揮してくれる。「頭が良さそう」とか「論理的っぽい」などの魅力である。現代は科学に対して、盲目的に信頼を置いている人もいるので、科学的説明を身につけるだけで、得をする世の中になっている。
ちなみに本書を含め、「科学哲学」という分野は物理学とか生物学とか化学とかの諸科学を、もう一段上の絡みて「科学は万能か」「科学は正しいのか」という視点から見る分野である。科学を盲目的に信じている人もいると思うので、ぜひ一読してみるといいだろう。
科学的説明とは、アメリカの哲学者カール・ヘンペルは、1950年代に、「説明の被覆法則のモデル」といのを提示した。
科学的説明とは、「なぜ」に答える説明だ。「なぜ地球は完全な球形ではないのか」「なぜ女性は男性より長生きなのか」など。なので、科学的説明を与えるとは、「なぜ」に対して十分な答えを与えることをいうのだそうだ。
一般に、科学的説明は論理構造を持っている。前提の集合の後に結論が来る、という構造になっている。結論では説明を要する現象が実際に起きる旨がのべられ、前提ではその結論がなぜ真なのかが述べられている。科学的説明とは、前提の集合が結論の説明と見なせる為に必要な、両者の間の関係を正確に特徴づける作業なのである。
その条件としては3つ。第一に、前提が結論を含意すること。つまり論証が演繹的であること。第二に、前提がすべて真であること。第三に、前提には一般法則が少なくともひとつ含まれていること。一般法則とは「すべての金属は電気をとおす」とか「植物はみな葉緑素を含んでいる」とか。これらは、「この金属は電気をとおす」とか「この植物は葉緑素を含んでいる」という個別的事実と、対照をなしている。一般法則は、自然法則とも呼ばれる。すくなくとも一つの一般法則には必ず訴えなければならない。
たとえば「机の上の植物はなぜ枯れたのか」を科学的に説明しようとすると、
一般法則として、「日光は光合成に必要」「光合成は植物の生存に必要」
個別的事実として、「机の上の植物には日光が届かなかった」
となり、2つの法則と一つの個別的事実が真であれば、植物が枯れるという出来事は起こらざるを得なかったことになる。「一般法則と個別的事実 → 説明すべき現象」となるのだ。
被覆法則モデルは、英語ではcovering law model of explanationと呼ばれる。説明すべき現象に対して、何らかの一般的な自然法則が当てはまる(cover)することを示すのが科学的説明なのである。
ただし、注意すべきこともある。現象と関連性のある情報が一般法則に含まれていなければならないのだ。どういうことか。
たとえば、「どうしてお父さんは妊娠しないの?」と子どもに聞かれ、「僕は経口避妊薬を欠かさずに飲んでいる。経口避妊薬を飲んでいると妊娠しないのさ」と答える父親はいないだろう。たとえ「父親は精神的に病んでおり、その処方として経口避妊薬を飲んでいた」としても、この父親の答えは的はずれである。的を射た答えはもちろん、「男の人は妊娠しないから」である。
だが、この「僕は経口避妊薬を飲んでいるからさ」という答えは、被覆法則モデルとピッタリと合致する。
一般法則「経口避妊薬を飲んでいる人は妊娠しない」
個別的事実「父親は欠かさずに経口避妊薬を飲んでる」
↓
説明すべき現象「父親は妊娠しない」
なのに、この説明では意味がない。前提に現象との関連性が欠如していては、科学的な雰囲気は漂わさても、的を射た説明にならないのである。
この被覆性法則モデルという科学的説明。AirDropとはまではいかなくても、なかなか使えるものだと思う。人間関係の構築にも一役買ってくれるのではないか。ここは南国の無人島ではなく、様々な問題がひしめく現実であり、人間関係なしでは生きていけない。人に説明する際には、ぜひ役立ててほしい。
以下はこの本の構成である。
1 科学とは何か
近代科学の起源
科学哲学とは何か
科学と疑似科学
2 科学的推論
演繹と帰納
ヒュームの問題
最善の説明をと導く推論
確立と帰納法
3 科学における説明
ヘンペルによる説明の被覆法則モデル
対称性の問題
関連性欠如の問題
説明と因果性
科学ですべてが説明できるのか
説明と還元
4 実在論と反実在論
科学的実在論と反実在論
奇跡論法
観察可能と観察不可能の区別
決定不全正論法
5 科学の変化と科学革命
論理実証主義の科学哲学
科学革命の構造
通信不可能性とデータの理論負荷性
クーンと科学の合理性
クーンの遺産
6 物理学・生物学・心理学における哲学的問題
絶対空間をめぐるライプニッツとニュートンの論争
生物学的分類の問題
心はモジュール構造をしているか
7 科学とその批判者
科学至上主義
科学と宗教
科学は価値観と無関係か
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ようやくできました。「妄想スナイパー理論」です。タイトルは「インパクトがある方が人目につくかな」と思って、こんなタイトルにしていますが、中身は「犯罪と非行をなくして、思いやりを育む方法」になります。
思いやりってけっこう、掴みどころのないものだと思うんですよ。昔から「思いやりを持ちなさい」とか「思いやりが大事です」なんて周りから言われることは多いと思いますが、「それって何なの?」と聞かれた場合や、「それってどういうこと?」と深く知ろうとした場合、それと「どうやって持つことができるの?」となった場合に、うまく答えられないと思うんです。
そこで、一つの具体案として、「スナイパーのようなものだと」というのを示したいと思います。スナイパーとは、遠くから銃で相手を狙う、狙撃です。思いやりとは、スナイパーのようなものなのです。もちろん、思いやりっていうのは頭の中のことなので、実際に銃なり狙撃なりはしませんが、遠くから狙うすスナイパーと思いやりっていうのは、似ています。
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