ビルが倒壊するような不安。心理描写の妙〜リアル15巻
「リアル」の15巻、面白かった。
何が面白かったかって言うと、高橋が車椅子利用者になってはじめてシュートを打つシーンが面白かった。ゾワッと来ました。
高橋っていうのは高校生なんですよ。元々健常者でバスケ部だったんですけど、素行が悪い。テメー(自分)はバスケ部のエースでバスケがうまいもんだから、周りの人間を「底辺」とか「Eランク」なんて呼んでいて女癖も悪い。そんな生意気で、近くにいたら近寄りたくないような人間だったんです。
そんな高橋が自転車に乗っている時にトラックに引かれてしまいます。それがリアルの第1巻でした。そんでずっと入院していて、最初は自身が事故にあったことすら信じられないで、人生はもう終わったかのような廃人になっていたんです。けどテレビで車いすバスケなんかを見たりして、「もう1回バスケやってみようかな」という気になって、車椅子バスケを始めることになります。
入院で廃人になっていたところから始まって、やる気が起きてきて。ベッドに寝たきりだった状態から車椅子に移動できるようになって。で、ようやく外に出られるようになって、体育館にも来られるようになって。健常者でいうフットワークのような、車椅子を自在に操れるようになるチェアスキルっていうんですけど、それを身につける練習をひたすらしてきたんです。で、そろそろ「ボールを触って練習しようか」ってところです。
高橋がバスケットボールを持ってシュートを打とうとするんですけど、打てないんです。どうしてか。車椅子から手を話すことが、怖くてできないんです。ボールを持って、フリースローラインからゴールを見上げているんですけど、ここのフリースローラインに立つまではシュートを打つことになんの恐怖も感じていなかったんです。当たり前のように打てると思ってた。
「オレはボールの感触を忘れていない」とか「ボールがネットを通ったときの音をオレは忘れていない」なんて思っていて、車椅子になってもどこかで「自分はバスケが上手い」って思っていたんです。
けれどフリースローラインに車椅子で立った瞬間、いざボールを両手で持とうとした瞬間に、恐怖が襲ってきます。怖くて車椅子から両手を離すことができないことに気づくんです。ボールを頭の上に上げて、上半身だけでシュートフォームを作ろうとするんですけど、それができない。車椅子から両手を離すことがとてつもない恐怖として描かれているんです。
「当たり前だ この手を話して シュートの構え」とは頭で思っていても、車椅子のタイヤを握った手が離れない。ゴールリングがはるか遠くにあるかのように感じるし、自分が孤立して心もとない存在に思える。
「離せよ 手を 手を」なんて自分に言い聞かせて、ようやく手を話すんです。一瞬だけで車椅子から手を離してシュートを打とうとします。手を離すっていってもちゃんと離したわけじゃないんです。一瞬だけです。
よく小さい子どもが物を背中に隠していて、「ちょっとだけ見せて」っていうと、一瞬だけパッと見せるじゃないですか。あんな感じです。おそらく高橋は、シュートだけ打ってその後すぐに手を車椅子に戻そうとしたと思うんです。そのくらいの一瞬。
急いでシュートだけ打とうとした。そのシーンがページの左下だったんですけど、紙をめくって次のページを見たら、高橋の下半身が薄っぺらい紙だけになってる絵が描かれていたんです。もちろん、実際には高橋には下半身があるので、この「紙だけになってる」ってのは高橋の心理描写なんですけど。
以前、井上俊彦さんの代表作「スラムダンク」をKindleでダウンロードしようとしたんですけど、どうやらスラムダンクの電子版って無いそうなんですよ。ダウンロードできなかった。「どうしてだ」と思ってネットで調べてみたら、井上俊彦さん意向らしんです。ウソかホントかわからないんですけど。「ディスプレイで見るのではなく、紙の本で見ることを念頭にして描いている」っていう信念があるそうなんですよね。
高橋がシュートを打とうとしてフリースローラインに車椅子で立って、怖くて手を車椅子から離せないシーン。井上俊彦さんの「ディスプレイで見るのではなく、紙の本で見ることを念頭にして描いている」っていうエピソードを思い出しました。
そう言えば、リアルの1巻にもこういうシーンがありましたよね。あれは高橋がベッドから車椅子に移ろうとする場面だったと思います。ベッドで上半身を起こすだけなのにそれができなくて。あまりにも自分の足が遠いものに目に写っって。
下半身が不自由な人にとって、車椅子で上半身を起こすってのは大変なんでしょうね。改めて、人間は全身を使ってバランスを取ってるんだってのを思いました。スポーツなんかでも、たとえばテニスにしろ野球にしろ、上半身を使う時は下半身が大事なんて言われますよね。上半身の下には下半身があって、下半身が上半身を支えている。支えがなければビルが倒壊するように不安定になるのでしょう。
心理描写に舌を巻く巻でした。
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