取締りと狩猟採集の共通点。警察官が選ぶ一時停止の取締りポイントとは

2020.09.16 (水)

なぜ警察は同じ場所で取締りをするのか

不思議ではないだろうか。

警察官は、いつもいつも同じ場所で取締りをしている。世の中に交差点は星の数ほどある。それに伴って一時停止線もたくさんある。けれど、近所の警察官が取締りをしている交差点は、いつもいつも同じ交差点なのだ。同じ一時停止線なのだ。

 

 

これはどうしてなのだろうか。というのも毎回、違う場所で取締りをしたほうが交通治安を守ることになるのではないだろうか。いろいろな場所でやるからこそ、多くのドライバーに取り締まりの手が及ぶ、というものではないのだろうか。

 

 

ドライバーというものは、本人が気付かないうちに通る道が同じになっていく。同じ場所に通勤するし、同じスーパーに買い物に行く。子どもの迎えだって同じ駅に行く。時間効率のいい道路を選ぶため、わざわざ遠回りすることは、よほどの理由がない限りやらない。そうすると時間効率のいい道路に、通る道が修練されていくのだ。同じ道路を通るようになる。

 

 

そうだとすると、警察官が同じ場所で取締りをしていては、同じ人間に対して取締りをすることになる。警察官が取り締まりをする交差点を通らないドライバーには、取締りの手が及ばないことになる。

 

 

こんなデメリットがあるのに、どうして警察官はいつもいつも同じ場所で取締りをしているのだろうか。同じ場所で取締りをする警察官は何を考えているのだろうか。彼らの思考回路はどうなっているのだろうか。

 

 

そこで、警察官をやっていた経験のある私が、その辺の疑問に答えようと思う。このコラムを読めば、警察官がいつも同じ場所で取締りをする疑問が晴れて、警察官にも共感できるようになるかもしれない。

 

 

ポイントは決まっている

まず、取締りをするポイント(場所)は決まっている。「決まっている」というと語弊があるかもしれないが、警察官の目線で見ると、取締りをできる交差点というのは、そんなに多くはない。話を簡単にするため、取締りを「一時停止違反」に限定しよう。赤信号無視とか歩行者妨害とか携帯電話使用とか、違反は色々あるけれど、ここでは一時停止違反だけを考えるものとする。

 

 

警察官が一時停止違反の取締りをしようと考えた場合、まずは「どこのポイントでしようかな」と考える。というのも、「取締りは『どこでもいい』」というわけではない。効率のいいポイントというものがあるのだ。

 

 

これは「狩り場」という概念に似ているかもしれない。モンスターハンターの世界でも、ヒトが狩猟採集民族だったときの時代でも良いのだけれど、「動物を効率的に狩れる場所」あるいは「皆んなが行きたがる狩り場」というのがあるはずだ。

 

 

狩りの対象の動物やモンスターは、どこにでも現れる。森林にもいるし、草原にもいるし、湖にもいるし。けれど僕たちは、それらを狩猟しようとする際に、もっとも自分たちにとって都合のいい場所を選ぶはずだ。

 

 

「自分たちが狩りたい」と思っている特定の動物がよく現れる場所。自分たちの装備で十分に余裕をもって倒せる相手が現れる場所。モンスターがコンスタントに表れる場所。そんな場所を選ぶはずだ。確かに動物やモンスターはどこにでも出現する。

 

 

けれど僕たち人間は、効率性を求める生き物だ。無駄なことはしたくないし、時間やエネルギーを浪費することはやりたくない。時間やエネルギーは有効に使いたい。なので、たくさんある中から自分たちに都合のいい場所を選ぶし、皆んなが効率性を求めるから徐々に場所は修練されていくのだ。

 

 

ポイント選定の要件

では警察官が選ぶ、一時停止違反を取り締まるのに都合のいいポイントとはどんなところか。どんな要件があれば、警察官にとって「都合がいい」と判断されるのか。

 

 

本来、この要件とは、警察官以外が知っていてはいけないものだ。というのも、これがわかってしまっては取締りをされる側、いわゆるドライバーにとって好都合で、警察官にとっては不都合だからだ。警察官はにとっては、不都合なことを相手側に知られることになる。

 

 

狩猟採集民族時代であれば、動物が人間の狩り場を理解することになるので、その場所は動物が通らないようになるだろう。人間からすれば、動物を狩れなくなって食料がなくなって生存問題になる。

 

 

けれど僕は、この要件を知ることも交通治安上、メリットのあることだと思っている。とにかく要件を見ていく。要件は3つある。一つ一つ見ていこう。

 

 

標識がしっかりと設置してある

まずは標識がしっかりと設置してあることだ。「何をそんな当たり前のことを」と思うかもしれない。「一時停止標識が設置されていない場所で取締りをができないなど、言わなくてもわかるではないか」と思うかもしれない。けれど、これがまずは警察官が考えることなのだ。「どこで取締りをしようか」となった時に、まっさきに考えねばならないことなのだ。

 

 

というのも、世の中には「見えづらい標識」というものがある。ドライバーの視点から見ると、手前側に植えられている草木でちょうど標識の部分が隠れていたり。もしくは台風なんかで明後日の方向に標識が曲げられていたり。こういう標識のある場所で警察官は取締りをしようとしない。

 

 

というのも、見えにくい標識はごねるドライバーにとっての追い風になるからだ。警察官はスポーツのレフェリーのような存在なので、違反をしたプレーヤーにペナルティーを課すように、ドライバーにペナルティーを課す。

 

 

当然、「自分がペナルティーをした」と言われた方は嫌な気分になるので、警察官に文句の一つでも言いたくなるだろう。あわよくば「違反を取り消してもらおう」「なかったことにしてもらおう」と考えるはずだ。

 

 

そんな時に標識が草木で見えなかったり、見えない方向に曲がっていたりしたときのことを考えてほしい。ごねる違反者にとっては、格好のごねる材料になる。

 

 

「あそこの道路標識は手前側の木で見えなかったんだよ」

「変な方向を向いていて見えなかったよ」

 

 

交通違反の取締りは、切符を切ろうとする警察官と、切符から逃れようとする違反者の駆け引きでもある。駆け引きにおいて相手の追い風になるような要件は省いておくのが鉄則だろう。だから警察官は、標識がしっかりと設置してある一時停止違反場所を選ぶ。

 

 

逆に言えば、警察官が取締りをしている一時停止場所とは、標識がしっかりと設置してある場所、ということだ。時々、当てずっぽうで「道路標識が見えなかった」とか「標識が木で隠れていた」と言い訳をする違反者がいるが、道路標識がしっかりと設置してあることは、取締りをする警察官にとっては「基本の『き』」である。「いろはの『い』」である。

 

 

なので、取締りをされておいて、「道路標識が見えなかった」はあり得ない言い訳だと心得ておこう。

 

 

現認がしっかりとできる

これも大事なポイントだ。一時停止違反を取締る時は大抵、現認係と停止係に分かれる。現認とは、一時停止線の近くに立って、通過する車が一時停止をしたかどうか確認する係のこと。これも当たり前と言えば当たり前だ。違反したのかどうか見えもしないのに取締る警察はいないからだ。ストライクゾーンが見えないのに「三振」をコールする主審はいまい。

 

 

けれど、これがしっかりと現認ができるポイントは案外少ない。一時停止違反をしっかりと見るには、ある程度の距離が必要だ。停止線よりも手前で一時停止するドライバーのことも考えて、一時停止線の手前5メートルくらいは見えていないといけない。

 

 

さらに、現認する警察官自身がドライバーから死角になっていて見えづらいのが望ましい。こんなことを書くと、「それだよ。警察が隠れて違反を見ているのが卑怯なんだよ」という声が聞こえてきそうだけれど、僕は取締りをする警察官が隠れて見るのは当然だと考えている。マツコ・デラックスが以前テレビで、隠れて取締りをする警察官に対して「卑怯だ」とかなんとか言っていたようだけれど、お門違いもいいところである。

 

 

というのも、警察官がやっているのはゲームではない。遊びではないからだ。もしこれが遊びとかゲームなのであれば、相手から隠れて対戦するのは卑怯ということもあり得るのかもしれない。警察官とドライバーの遊びの勝負なのであれば、「隠れるのは卑怯」という言い分が通じる部分もあるのかもしれない。

 

 

けれど取締りとは交通治安を守るかどうか、という公共性の高いものだ。決してゲームなどではないし、遊びなどでもない。市民国民の生活そのもの、治安を守れるかどうかという話なのだ。

 

 

車を運転する側からすれば警察官の取締りを嫌がるかもしれないが、たとえば歩行者からすればどうか。交差点の近くに住んでいて、毎日幼い子どもを連れて交差点を渡らなければならないとしたら。車が一時停止をしないような交差点は、嫌で嫌でしょうがないのではないか。

 

 

人間とは都合のいい動物で、歩行者のときは歩行者の思考回路になるし、ドライバーの時はドライバーの思考回路になって、他の側であったときの思考回路を忘れてしまう。歩行者のときは「もっと取締りをすればいいのに」と思うくせに、ドライバーのときは「取締りなんかするなよ」と考える。

 

 

とにかく歩行者の側、つまり交通弱者からすると、警察官の取締りはゲームでも何でも無いし、隠れてでもやってほしいものなのだ。隠れて取締りをすることは卑怯でもなんでもない。正当性がある行為だ。なので、現認する警察官にとっては、ある程度ドライバーから見えづらい場所に立っていられること。これが取締りをする一時停止線を選ぶ要件になる。

 

 

違反した車を止められスペースがあること

これも大事な要件である。車は、乗用車であれば幅は約2メートル、長さは約4メートルほどある。この車が、多いときは4〜5台連なるのだ。

 

 

警察官が切符を切るのには5分ほどかかる。その間、5分よりも早いペースで違反者が表れると、車を連ねて止めることになる。車が4〜5台連なれば20メートルなり30メートルに簡単になってしまうので、それだけの余裕があるスペースが必要だ。それだけ道路脇に余裕のある場所が、取り締まりをする警察官に取っては都合がいい。

 

 

それともう一つ、違反した車を停止した場所からは、違反した一時停止線が見えづらい場所が良い。違反したドライバーを止めた時、そのドライバーから違反した停止線が見えにくいことが、場所を選ぶ際に都合がいい。

 

 

さっきも書いたように、切符を切るのは警察官とドライバーの駆け引きでもある。スポーツではジャッジを巡って審判とプレーヤーが対立するように、取締りでは警察官とドライバーが対立する。警察官からすれば、ドライバーとの駆け引きの際に、ドライバーにとって都合いい条件は排除しておきたい。

 

 

停止したドライバーから停止線が見えると、停止線を通過する車を指差して「あれも違反じゃないか」「おれは止めたのに、アレは止めないのかよ」というドライバーがいるからだ。

 

 

確かにこれは、ドライバーの言うことも分からなくはない。自分と同じように違反した車であれば、自分と同じように取締りしてほしいと思うだろう。自分だけが不利を被ったのであれば、公平性は保たれない。

 

 

けれど、これに関しては、警察官側の言い分もわかって欲しい。限られた人数で取締りをしているのだ。確かに警察官にとって不公平に接するつもりはないし、各ドライバーを不公平に扱う理由もない。差を設ける理由はない。

 

 

ただ、切符を切るのに5分ほどかかかるので、人数がいなければその間はいくら違反車が通過したからといって、それを取り締まることなどできないのだ。

 

 

もし仮に噴水のように、人材が組織から半永久的に吹き出してくるのであれば、一時停止線に常時警察官を配置しておくことができる。けれど、警察官だって人間だし公務員だ。ずっと取締りをしているわけにはいかない。他の仕事もあるし、限られた時間と人数の中で取締りをしている。狩りと同じで、エネルギーだって消費する。全てのドライバーを公平に扱うことは、間違いなくできることではない。取締りは不公平にならざるを得ないものなのだ。

 

 

まとめ

というわけで、交通取締りポイントを選ぶ際の要件について書いてみた。

警察官はいつもいつも同じ場所で取締りをしている。どうして他の場所で取締りをしないのか。それは、要件がそろっている場所が限られているからだ。交差点は日本全国にたくさんあるし、一時停止線だってたくさんある。

 

 

けれど、組織の構成員であって一人の人間である警察官は、効率的に取締りできるポイントを探す。狩りに出たのに、動物を仕留められないで帰ってきたは、家族に申し訳ない。子どもの食い扶持を確保するために、お父さんとしてはぜひとも狩りを成功させて帰ってきたい。警察官も、取締りを成功させたいがために、ポイントを絞るのだ。

 

 

狩りの要件を満たすポイントはいくつもあるわけではないし、効率的にできるポイントは限られている。違反の取締りは警察官どうし、パトカーどうしの競争の面もあるので、皆んなが効率的に切符を切れる場所に群がってしまう。

 

 

最後に、こんな警察官にとって不都合となるようなことを僕が書いたのは、結局はこんなことを書いたほうが交通治安という面から見てメリットがある考えたからである。

 

 

ネット技術の発達もあって、隠そうとしていることはどんどん明るみに出ている。もはや何事も隠せるものはないし、秘密にできるものはない。信頼を得て共感してもらうには、開示した方が得なのだ。これまでは、相手にバレないように隠していることがメリットになっていたけれど、今の時代は公にしたほうがメリットを呼ぶ。

 

 

こうやって警察官に対する共感、警察官に対する親近感を持ってもらった方が、ドライバーなんかも「警察官も苦労しているんだな。よし、ルールを守ろう」と思うし、違反者も「警察にも警察なりの事情があるんだな。よし、今回は自分が折れてやろう」と思えるのではないだろうか。

 

 

参考にしてほしい。

 

 


 

 

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