昔の人は、どうやって地球の大きさを測定したのか

2020.06.03 (水)

天文学を語るうえで、地球の大きさ、月の大きさと月までの距離、太陽の大きさと太陽までの距離は大事な要素であるが、大昔の人はこれらをどうやって測定したのだろうか。科学技術も発達していない、インターネットだって使えない、計算機だって無い。そんな世界で、僕たちのはるか遠い先輩方は、どうやって天文学への第一歩を踏み出したのであろうか。

 

 

実はこれら3つの要素は比較的早い段階で測定されていて、始めに地球の大きさを測定した人物としては、エラトステネスの名前が上がっている。紀元前276年、現在のリビアで生まれた人物だ。

 

 

彼は幼少の頃から天才ぶりを様々な分野で発揮したと言われており、ペンタトロス(五種競技選手)というあだ名が付いていたらしい。大人になってからは、エラトステネスはアレクサンドリア図書館長というポストに就いていた。

 

 

図書館長と言っても、僕たちがイメージするような、ただ本を整理するだけの、一日中本を読んでいるだけの、ただ図書館利用者を待っているだけの図書館事務員とは違う。この時代のアレクサンドリアは世界の知の集積場所で、世界最高峰の学問の場だった。

 

 

グーグルとかアップルの本社のような場所だったのだろう。「刺激と活気にあふれていた」というから、至る所で議論なんかが行われていたのかもしれない。ホワイトボードや黒板のようなものに板書をしながら、「真実は何か」「何が世界を動かしているのか」なんて対話がなされていたと想像できる。

 

 

エラトステネスは図書館長をしていたある日、エジプト南部のシエネという町にある不思議な井戸の話を耳にする。その井戸は夏至の日の正午になると、陽の光が井戸の奥底まで届いて照らすのだという。

 

 

エラトステネスは同じように夏至の日の正午にアレクサンドリアで、太陽光線の角度を測ってみた。地面に棒を突き立て、棒の先と棒の影の先を結ぶ角度を測ったのである。すると、7.2度だった。この7.2度という角度が、アレクサンドリアとシエネから地球の中心に向かって引いた2つの半径がなす角度に等しいと、エラトステネスは考えたのだ。

 

 

エラトステネスは次に、シエネとアレクサンドリアの距離を測った。すると、5000スタディオンだったという。スタディオンとは当時の測定単位で、1スタディオンとは徒競走が行われる標準的な距離だった。

 

 

当時、大地が球形であることは古代ギリシャ人によって、すでにわかっていることだった。船が水平線に消える時に、一番最後まで見えているのはマストの先端だった。月食の時に月に写るのは大地の丸い影だったので、大地が球形だというのは誰の目にも予想できることだった。ヘロドトスという歴史家・旅行家は、北方に住む人々が一年の半分を寝て暮らすと述べており、太陽光の当たり方が地域によって異なるのは大地が球形であることの証拠だった。

 

 

エラトテネスは、アレクサンドリアとシエネとの距離は丸い大地の360分の7.2であって、アレクサンドリアとシエネとの距離の50倍が地球の大きさだと考えた。

 

 

こうして地球の大きさを、人類は測定したのである。

 

 

「科学の進歩は、何人かの科学者たちがそれぞれ他人の仕事の上に立って、時間をかけて開発、改良していく中で生まれる」という言われている。人類史の中で見られる確実で堅実な科学の進歩は、自分のレンガを他人が積んだレンガの上に重ねることで生まれるのだ。

 

 

エラトステネスが地球の大きさを計算できたのも、それまでにも数学のレンガが他人によって積み重ねられていたからであり、数学の基礎ができていたからだ。

 

 

数学の基礎をつくったのは、古代ギリシャのピタゴラスだと言われている。ピタゴラスは紀元前600年頃の科学(哲学)黎明期に生きた人物で、「万物は数なり」を信念とし、天体を支配する数学的規則を見出そうとした。

 

ピタゴラスは和音を理論的に説明した人物だった。彼は、楽器の弦の長さを半分にすると1オクターブ高い音が生じて、もとの長さの音と調査することに気づいた。弦の長さを変える時、始めの長さと簡単な比になるようにすると、弦を弾いた時に鳴る音は、初めの音と調和するのだ。

 

 

このようにしてピタゴラスは、数学で音楽を説明できるし、世界は音楽で説明できると考えた。宇宙は音楽で満ちているというのが、ピタゴラスの見立てだったのだ。ちなみに、ピタゴラスの言う宇宙の音楽は比喩でもなんでもなく、実際の「音」である。

 

 

宇宙は音楽で満ちているのなら、どうして僕たちは音を聞くことができないのかと言うと、それは慣れきってしまっているからである。 僕たちは生まれたときから宇宙の音楽を聞いているのだが、その音楽に慣れきってしまい、知覚できないのだという。

 

 

こうして、天文学を語る時の基礎である地球の大きさ、月の大きさと月までの距離、太陽の大きさと太陽までの距離の3要素のうち、地球の大きさを人類は知ることができた。次回は、どうやって月の大きさと月までの距離、太陽の大きさと太陽までの距離を測定できたのかを説明する。

 

 

 


 

 

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