神話から哲学への移行は書物にまとめたことが大きい。世界50カ国1500万人が読んだだけのことはある〜ソフィーの世界

2020.08.24 (月)

 

 

「わかりやすくていい」というのが、「ソフィーの世界」という哲学本を読んだ感想である。

 

 

この本を、あえて「哲学本」と言ってしまおう。これは、他の哲学本に対する皮肉でもある。

 

 

一見、「ソフィーの世界」を哲学本と言ってしまうことに反発を覚える人もいると思う。主人公は14歳の女の子だし、平坦な言葉で語られているし。それに引き換え哲学とは難解な分野で、思想とは深いもの。「そんなに簡単に理解できるものではない」と考える人もいるだろう。けれど、この「ソフィーの世界」は、これはこれでいいのだ。

 

 

哲学の世界が難解なものであることは、誰も否定しない。確かに哲学は誰が見てもハッキリとわかるようなものではない。積み重ねも必要なので、これまでの思想史を勉強することも哲学の理解には欠かせない。

 

 

けれど難解なものを難解なままに描写した本だけでは、誰も取っ掛かりを得ることができない。僕も何冊か哲学関係の本を読んできたけれど、「入門」と名のつくタイトルの本で、本当に「これは入門書だ」と思えるようなものはほとんどなかった。

 

 

「これから勉強しますよ」という人に向けた本につく言葉が「入門」であるべきだけど、わかりやすく書かれた入門書は、哲学の世界にはほとんどない。

 

 

表面をさらっとなでるような本が必要なのだ。ちょこっとずつつまみ食いをして歩くような、いい意味で上っ面だけの本。それが本書である。「この程度の本を一冊読んで哲学をわかるわけがない」という人もいると思うけど、そんなのは当たり前であって前提である。狭く深い本も必要だし、広く浅い本も必要。どちらも欠かせなくて、両方を交互に読み進めながら理解を促していくしか、勉強の方法はない。

 

 

表面的とは言え、それでも「なるほど」と思うところはいくつもあった。たとえば「ひとたび神話が文字に書かれると、神話について議論できるほうになった」という記述である。

 

 

僕は神話から哲学への移行の話が好きである。神話も哲学も、どちらも世界の仕組みを考えた思想であることには変わりない。どちらも「世界はこんな仕組みになっている」「世界はこんな風に出来ていったのだろう」と、思考の方向は同じである。

 

 

神話も哲学も思考の向きは同じだけれど、それでも神話だと納得できないのに対し、哲学だと納得できる。「神様がつくった」とか「初めに巨人がいて‥」なんて神話の話をされても「そんなのは大昔の人の考えたことでしょ」と相手にしないのに対し、「タレスは万物の根源が水と考えた」とか「在るものは在るし、無いものは無い」なんて哲学者の話をされると「そういう見方もできるよね」と納得せざるを得ない。

 

 

この神話と哲学の違い。方向性は同じなのに、片方は納得できなくて片方は納得できる。この「納得できない」から「納得できる」への移行が、不思議であると同時に、僕には興味を持たせてくれる。「神話から哲学への移行はどうして起こったのだろう」とか「どうしてイオニア地方に哲学が起こったのだろう」と。

 

 

この神話から哲学への移行の話として面白かったのが、「ひとたび神話が文字に書かれると、神話について議論できるほうになった」という記述である。

 

 

なるほど、神話から哲学への移行の「なぜ」を解明する一つの見方として、「文字に書かれた」というのがあるあらしい。つまり、思考をまとめる作業があったのだ。

 

 

神話は世界各地に転がっていて、各地の特色を生かした様々な神話のパターンがある。神話は世界中にあるのに、どうして神話から哲学への移行がギリシャで起こったのか。その理由の一つは、ホメロスとヘシオドスがそれぞれ、神話を大きな書物にまとめたからだ。

 

 

書物にしたことによって起きたのは、改めて自分たちの神話を見直してみる、という工程だ。文字にせず自分の頭だけで考えている段階では、見直すという作業がしづらい。一歩離れて客観的な立場を取りづらい。頭に思い描くだけ精一杯だからだ。

 

 

文字にしてみて、文章に書いてみて、はじめて全体を見通すことができる。文章にして読んで、はじめて対象として見ることができる。

 

 

神話も、文章にすることではじめて客観的に見ることが出来たのだろう。それまでは話したり聞いたりしかしてこなかったので、まとめることがなかった。まとまったものを吟味することがなかった。まとめてみて改めて、神話のおかしさに気づいたのだ。

 

 

これは文章を書いているとよく分かるのだけれど、自分の考えがしっかりしていないと文章は書けない。というのも、考えが曖昧なままで文章を書いていると、論理がおかしくなって破綻してしまうからだ。というか、破綻する前に自分で書こうとしている内容の論理がおかしくなることに気づいて、それ以上書くことができなくなってしまう。書くことで初めて見ることができる視野がある。

 

 

これが古代のギリシャでも起こったのだろう。それまでに自分たちが信じてきた神話。自分たちが物知り顔で話してきた神話、世界の成り立ち。それをまとめられた文章を読んでみて、初めて「あれ、これっておかしくね?」と気づいたのだ。

 

 

「神様って‥地方によって色々な姿かたちで伝えられているけど本当はどんな姿かたちなの?」

「神話ってそれぞれの地方にあるけれど、それぞれの地方のことしかうまく説明できない。〇〇地方の神話では、▲▲地方の世界をうまく説明できないんだけど」

「肌が黒い人が住む地方の神話には肌が黒い神様が出てくるし、金色の髪を持つ人の地方の神話には金色の髪の神様が出てくる。これらの神話って、ただの作り話なんじゃないの?」

 

そんなところだろう。

 

 

こんな風に、「ソフィーの世界」がいかに表面的な内容だとしても、勉強になる部分も確かにあった。特に哲学なんて、どの言葉で理解が加速度的に進むかわからない。体系だった文章を読んでも理解が進まないときもあるし、断片を読んだだけで理解が進むときもある。

 

 

表面的だし、決して深く体系だった知識ではないかもしれないけれど、哲学史に対する取っ掛かりとしてはこれ以上ないもの。それは「わかりやすい」という意味でこれ以上ないものである。

 

 

「ソフィーの世界」は、平坦な文章で簡単に読めるのがいい。‥とは言っても、それでもこの分厚さだし、書いてあることすべてを簡単に理解できるものではない。理解は出来ないかもしれないけれど、すくなくとも読むことはできる。

 

 

世の中の「哲学入門書」が読むことすら難儀であることを考えると、やっぱり「ソフィーの世界」の功績は素晴らしい。「世界50か国1500万人超が読んだ名作」と紹介されているだけのことはある。

 

 


 

 

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