連れ子の子どもはどうして非行に走るのか
連れ子の子どもがどうして非行に走るのか。
よく聞く理由は「居場所がない」ではあるが、「居場所がない」だけではいまいちわからない。「居場所がない」とはどういう意味か。
僕が見た例を1ついうと、それは「自分には降りかからない愛情を近くで見ることになる」という意味だ。
僕が見たその家は、40歳代の父親と母親、赤ん坊、それと中学生の女の子の4人暮らし。中学生の女の子は母親の連れ子。父親は、バツイチであった母親と結婚し、連れ子を養子とした。その後で一人子どもをもうけた。
父親は自分の子どもが可愛くて毎日毎日職場でも家にいる赤ん坊と母親のスマホを通じて連絡をとっていた。24時間の仕事であったため、夜も職場で仕事をすることになる。その父親は、職場で夕飯を食べる時間になると毎回、家にいる赤ん坊とスマホ越しに話をしながら夕飯を食べていた。
ただ忘れてはならないのは、父親と連絡をとっている向こう側の家の中には、中学生の女の子もいたということ。父親が赤ん坊とスマホ越しに夕食を食べている時、中学生の女の子と話をすることはほとんどなかったように思う。
父親が自分の子どもを可愛く思うのは当然だ。世の中には生まれてすぐに自分の子どもを捨ててしまう親もいるにいるが、ほとんどの親は子どもをこの上なく可愛く思う。自分の親指にしがみつく手を握って、「自分を犠牲にしてもこの子だけは」と思うだろう。
特に第一子はの可愛さは格別である。第二子や第三子ともなると、子どもの可愛さにも慣れてくるが、第一子はすべてが未知。「子どもはこんな風に笑うのか」「子どもはこんな風に動くのか」「子どもはこんな風に成長するのか」と、初めてジュラシックパークを観たときのように驚きと発見でたまらない。父親が第一子を可愛がるのは当然のことだ。
中学生の女の子が、スマホ越しに父親と話さないのも、変わったことではない。男の子でさえ、小学校中学年になると、父親と話す機会が減ってくる。ましてや中学生、ましてや女の子である。ただ、それを頻繁に夕食の時に見せられるのは、女の子にとってこたえるしつらい。
女の子は、決して自分には降りかからない愛情をずっと近くで見ていることになる。これを、「自分の居場所がない」ととらえてもなんの不思議はないのではないか。
会話が自分の前を素通りしていくのだ。
飲み会が苦手な人はいると思うが、飲み会の何が苦手なのかというと、会話に入れないことだろう。飲み会とは絶えず雑談をしなければならない場所なので、雑談が苦手な人は飲み会が苦手なのは当たり前だ。
雑談が飛び交っている中で自分だけが雑談に入れなければ、それほどつらいこともないだろう。他に行き場所は無いので、目の前を雑談が右に左に過ぎ去っていくのを、そこにいて見ていることになる。
イジメも同じなのかもしれない。イジメは暴力的なのもつらいが、なにより子どもには無視されるのがこたえるだろう。僕も小学校の時に経験したことがあるが、話に混ざれない状況を話の近場で聞いていることほど惨めなものはない。
ヒッチハイクをしようと道路脇になっているが、走っている車を止められずにモジモジしているのと同じかもしれない。車に乗せてもらいたいので走っている車を止めたいけれど止められず、走り去る車のすぐ脇で走り去る車をただ見ている状態。
そう考えると、イジメの無視と、連れ子の環境というのは同じなのかもしれない。どちらも会話に入れずに傍観してる状況である。
だから、父親と母親にはよほどの配慮が求められるのだろう。確かに、「自分の遺伝子を受け継いでない子どもに、自分の遺伝子を受け継いだ子どもと同じように接しろ」と言われても無理なのかもしれない。自然淘汰は、まずは自分の遺伝子を伝えようとする。
自分の遺伝子を受け継いでいない子どもに配慮することで、自分の遺伝子を受け継いだ子どもへの配慮が甘くなるようであれば、自分の遺伝子を受け継いでいない子どもに対する配慮を削って、その分を自分の遺伝子を受け継いだ子どもへ振り分けようとする。その感覚は自然だし、哺乳類として、動物として仕方のないものなのだと思う。
けれど僕たちは人間だ。他の動物と違って、文化を発展させ、人権の概念に目覚め、他人のために涙する種である。自分の遺伝子を受け継いだ子どもだけに配慮しているようでは、他の動物と同じになってしまう。
連れ子が非行に走る理由として「居場所がない」というのはよく聞くが、それは「自分には降りかからない愛情を近くで見ることになる」という意味なのだ。イジメで無視されることと同じで、自分が入れない会話を近くで聞かなくてはならないことほどつらいものはない。雑談に入れない飲み会ほどつらいものはない。
それと同じで、自分も乗っかりたいのに乗っかれない状況を、しかもその乗っかりたいものが目の前を過ぎていくのを見ているのは、精神的にこたえるものだ。連れ子が非行に走るのは、そんな状況なのだ。
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