どうしようもなく見える人間が持つ、美や価値観〜斜陽

2020.10.30 (金)

 

「人間失格」もそうだったけど、太宰治はどうしようもない人間を描くのが特異なのだろう。

 

 

文章をうまく書くコツの1つは、自分の興味の核を掘り当てることだ。うまい人間は、何を書いてもうまいのではない。自分の得意分野でそのうまさを発揮する。どんな人間にも得意と不得意とがあって、うまい人間とは自分の得意をうまく見つけられて、そこで立ち回りができる人なのだ。

 

 

僕も、自分の書きたい内容と興味の対象とがうまく一致すると、一気に文章を書くことができる。筆が進む。指が勝手に動いてキーをタッチすることができる。余計なことを考えないで、書いているうちにあっという間に時間が過ぎてしまう。

 

 

逆に書きたい内容と興味の対象がずれ、うまく一致しないと文章が進まない。なかなか書くことができない。時間ばかりが過ぎてしまう。

 

 

2ちゃんねる創始者のひろゆき氏もYou Tubeで、「自分は得意なことだけ話しているから、僕は周りから何でも知っているように見える」と話していたことがある。僕たちは彼を見てとても博識な人物に見えるわけだけれど、本人は「そうではない」という。広く見える見識も、決して興味が全方向に広がっているわけではないらしい。実はごく狭い範囲であって、それをうまく見せているだけ、のようなのだ。

 

 

太宰も「人間失格」とか「斜陽」のような作品を書いて評価されている。ということは、これらの作品に見られる「どうしようもない人間」に、太宰自身も興味がある、ということなのだろう。もしかしたら、彼自身がどうしようもない性格を秘めている人間だったのかもしれない。

 

 

「斜陽」で描かれているのは、滅びていく人間の姿である。読んでいて「この人はどうしようもないな」と思うような、救いようもない人間。彼らが滅びていく姿を美しく描いていく。滅びていく人間はバカなのかというと、必ずしもそうではない。少なくとも太宰の作品を読む限りそうではない。

 

 

彼ら滅びていく人間にも、彼らなりの考えがあって、端から見ると「滅びていく」ように見えるのだ。それが「可愛そうなこと」のように見えるのだ。

 

 

他人である僕らから見て「可愛そう」であっても、本人が不幸であるとは限らない。私たちが「この人は不幸だよな」と思って人を見たとしても、その人が本当に不幸かどうかはわからないのだ。こんな人間は「ダメだよな」と思って人を見たとしても、本人にはその人なりの「美」があるのだ。

 

 

どうしようもない人間が描かれているのが「斜陽」という作品である。けど、そのどうしようもない人間を見て、その生き様にも「美」を僕たちは感じることができる。ということは、その生き方にも、端からはわかりにくいだけで、しっかりとした美がある生き方なのだ。

 

 

そんなどうしようもない人間の生き方を見て、多様性を学ぶことができれば、「斜陽」のような物語を読むことにも意義があるのではないだろうか。「一見、不幸に見える人生も、本人にとっては幸福なのかもしれない」「どうしようもない生き方にも美がある」あるいは「自分とは違う価値観をもった人もいる」ということをこの作品から読み取るのが、この本の正しい読み方(そんなものがあるのなら)なのかなと思う。

 

 

「斜陽」では、4人の滅びていく姿が描かれている。滅びていくのは、僕には4人に見える。

 

 

愛で滅びていく、主人公のかず子。病気で滅びていくかず子の母。ドラッグで滅びていくかず子の弟。田舎根性で滅びていくかず子の恋相手である上原。そのうち、かず子、かず子の母、かず子の弟には、華族からの没落という滅びもプラスされる。南に昇った太陽が西の地平線に下っていくが如く、滅びていく。

 

 

でも考えてみれば、この作品の中では太陽が南に昇ってすらいない。冒頭から太陽はすでに傾いている。本を開いたときから、すでに英華は過ぎており、「元華族」という肩書だけが、かつて太陽が南の空に昇っていたことを予言させる。

 

 

なので作品で描かれているのは、すでに西の空にある太陽が、地平線に沈んで見えなくなるまで、である。

 

 

僕は特にかず子に対して「どうしようもなさ」を感じ、「確かにこういう人いるよね」という共感をもった。警察でもかず子のようなどうしようもない恋愛観を持っている人がいるのだ。

 

 

ドメスティック・バイオレンスとか、家庭内暴力とか、そんな110番通報を受けて現場に行く。そうすると、暴力を振るった男性と暴力を振るわれた女性がいる。警察官は女性に対して「暴力を振るわれたのだから、もう別れなよ」とか「被害届を出しなよ」と促すのだが、女性は首を立てに振らない。

 

 

彼女らは、「まだ彼が好きだから」とか「彼なしでは生きていけないから」「彼には私が必要だから」という理由で、別れさせようとしている警察が悪者であるかのような目を向けるのだ。どうしようもない女性は、暴力を振るわれているのに、それでも男性と別れようとしない。

 

 

僕としては「利用されているだけ」「いいように使われているだけ」と思えるし、だから「別れた方がいい」とアドバイスするのだが、彼女らはそれを聞き受けてくれない。

 

 

僕はこういう女性を見ると「不幸だな」とか「可愛そうだな」とか「本質が見えていない」「感情的になってしまって、合理的に考えられていない」と思う。

 

 

けれど太宰の作品を読む限り、このようなどうしようもない女性にも美が無いわけではない。彼女らが不幸なわけではない。彼女らに思考力がないわけではない。見えていないわけではない……のかも。

 

 

もしかしたら、暴力を受けてそれでも相手を「好きだ」と言える彼女らは、周りで第三者的に見ている警察官よりも、自分たちの事を考えられているのかもしれない。決して感情的なだけで「それでも」と言っているのではないのかもしれない。彼女らは彼女らなりの美、価値観、ライフスタイルを体現しているだけなのかもしれない。

 

 

そんなドメスティック・バイオレンスとか家庭内暴力の被害者女性を、「斜陽」を読んで思い出してしまった。彼女らをわかっていないのは、彼女ら自身なのか、それとも110番通報を受けて駆けつけた警察官の方なのか。難しい問題である。

 

 


 

 

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