子どもに何も言わないのが教育〜鮨職人VS.堀江貴文
子どもには何も言わないほうが良いのではないか。これは、ちょっと斜めの方向から見た教育の話ではない。決して斜に構えた教育の話ではない。教育ど真ん中の話である。子どもの教育を真剣に考えた場合、子どもに対して「教育」という名の下で何かを与えようとした場合、教えようとした場合、それらは全て「余計なこと」になるのではないか。
確かに「教育」とは、人生の後輩に対して何かしらを与えることである。子どもを始め、後輩とは基本的に教育を嫌がるものであろう。学校が好きな子どもなんて、ほとんどいないはずである。大部分の子どもは「学校に行きたくない」と思っていることだろう。そんな嫌がる子どもに対して授業を行うことが教育である。嫌がる子どもに対して無理に情報を与えることが教育である。
けれど、もはや親という名の人生の先輩が後輩に対して教育をしようとすることは、もはや意味がないのではないだろうか。親や教員としては「これだけは覚えておいてほしい」という厳選した内容を与えている気になっているのかもしれない。が、環境の変化が激しいこの社会において、人生の先輩が思う「教育」という名のいい事は、全て思い込みなのではないだろうか。それまでの経験は、後輩にとっては生きないことのほうが多いのではないだろうか。むしろ「余計なことを言わないこと」に重点を置いたほうが、子どもは真っ当に成長するのではないだろうか。
この本には、鮨の魅力と同時に、鮨職人の魅力が書かれている。特別に鮨職人の魅力が書かれているわけではないが、読んでいると鮨職人に対する憧れが湧いてくるのである。
そんなところを読んで、私自身も子どもの頃、料理人になる夢を抱いていたことを思い出した。厨房やお客の前で、腕をふるって料理を作る料理人に憧れたものである。それは鮨職人であったかもしれない。木の雰囲気と、シンプルで綺麗な店内で、お客さんの前で、包丁を見事に扱いながら、食材を調理していく。食材は料理へと変化する。そんなものに憧れていたのではないか。
けれど、いつの間にかそんな夢も私の人生において端の方へと追いやられてしまった。世の中の普通や常識や当たり前を取り込んでいくいく中で、周りの雑音をそのまま受け取っていく中で、「自分の本音が周りと違うんじゃないか」と羞恥心を身につけていく中で。
「自分がどんな人間になりたいか」は考えず、ただ目の前のテストを受けて、授業を受けて。白い服装をして、頭にも白いキャップをかぶって、包丁や鍋を扱いながら、厨房に立つ料理人を目指していたはずなのに、いつの間にか将来像は、ぼんやりとしたサラリーマンになってしまった。
子どもたちには、夢をそのまま持ち続けてほしい。目の前の普通に騙されず。だって目の前の普通っていうのは誘引力が高いから。凄まじい引力で注意の全てを持っていってしまう。子どもの頃に憧れた新鮮さをとどめておいてほしい。
人生の先輩が言うことなんて、子どもにとっては夢を曇らせる普通でしかない。「苦労して欲しくないから」「愛しているから」なんていう耳障りの良い言葉で包みながら、夢から新鮮さを奪ってしまう。
もはや何も言わないほうが良い。人生の先輩は、親は、教育者は、何も言わないほうが良い。どうせ思い込みでしかないから。「そっとしておいてやれよ」って。素直さを奪わないでほしいよ。
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