父という病 〜 非行防止の子育てや原因・家庭環境、少年の心理を探る
この本は、精神科医である著者による、父と子の関係についての本です。
「父親とは何か」「父親は必要なのか」「父親不在を、子どもはどう感じるか」などの問いに答えながら、家族関係や人間関係に上手くいかない人の原因を、「父と子の関係」から探る内容です。
共感できる部分が非常に多く、この本を読んでから、著者である岡田隆司氏の他の本も読むようになりました。私は子ども関係、特に非行について生業にしていくつもりなので「父親不在の人にとって、危険なことや悪いことを教えてくれる先輩が、しばしば魅力的な存在として映る。」など、とても参考になりました。
全国の子育てをするお父さんお母さん、親との関係に悩む方々に、一助となる一冊です。
以下、本文からの引用です。
1 「母親と父親を対比」について、著者は次のように述べています。
社会においては、父親がいなくても、子どもの生存には、母親の不在ほどには影響しない。
母親の欲望に呑み込まれたままでは、健全な成長が遂げられない。父親は、子どもに対して乗り越え難い限界として立ちはだかるとともに、子どもを母親との関係から外の世界へ引きずりだすことによって、欲望を地に足のついた、練り鍛えられたものに変えていく。
子どもには母親も父親も必要なのだ。それぞれには、得意とするかかわり方があり、得意とする時期がある。乳幼児においては、母親の役割は圧倒的に重要だ。しかし、子どもが少し大きくなるにつれて、父親の役割は増大してくる。まずは、母親からの分離を助けるとともに、子どもに世の中の掟や厳しさというものを教える。また、遊びということにかけては、父親は母親の追随を許さないものがあり、子どもたちの行動や知的好奇心を刺激する。さらに思春期から青年期にかけ、父親の存在は一段と重要性を増す。社会への誘う導き手を果たす。
母親との関係が、子どもの存在の根底的な安定にかかわっているのに対して、父親との関係は、子どもがどちらに向かって歩んでいくかという人生の方向性や社会への関与の仕方にかかわる部分が大きい。
2 「子どもにとって父親とはどういう存在か」について、著者は次のように述べています。
今では、すっかり父親のことを見下していたり、どうでもいい存在としか思っていない人でも、もう思い出せないくらい過去において、父親に同一化しようとした時期があるものだ。そして、そんな憧れは、父親を恐れる気持ちと愛する気持ちの間で葛藤を乗り越えようとして、子どもがたどり着いた境地だった。
やがて父親に対する憧れは色あせ、子どもは父親から距離を乗り、独自の歩みを始めるが、それは自己確立に向けた大切なステップだった。この新たな段階を父親が受け止め、静かに見守ってくれると、子どもは必要なときだけ助けを求め、スムーズに自立していくことができる。
しかし、父親が自分の路線にこだわり、子どもの願望ではなく自分の願望を押し付けたりすると、子どもの自立プロセスが阻害され、子どもの思いとのズレが大きくなり、激しい反発や迷走につながる。
父親に対する恐れが強すぎる場合や、両親の不安定な関係のため、父親を愛する気持ちを歪められた場合、子どもは父親との葛藤がうまく乗り越えられず、父親に対する敵意や見下した態度を強めることで自分を守ろうとする。こうした傾向は、父親に対してだけでなく、他者全般、ことに長上の存在に対してぎくしゃくしたり、反発したり、信用できなかったりという事態につながりやすい。
父親不在の人にとって、危険なことや悪いことを教えてくれる先輩が、しばしば魅力的な存在として映る。
知らず知らず理想的な父親を求めてしまい、友達や上司に対して、過度な期待や失望を抱きやすい。逆に父親の関係が稀有な人では、過度に距離を取った態度を取りやすいし、父親との葛藤が強い人では、人に対する緊張や警戒が強くなり、むやみに挑発的で反抗的な態度をとり、無用の摩擦を増やしてしまいがちだ。
3 「子どもは父親をどう受け止めるべきか」について、著者は次のように述べています。
まず自分のなかの理想の父親像や否定的な父親像への囚われを自覚することだ。
相手だけを悪者視する幼い思考を脱しよう。
否定的な父親像は、母親によって捏造されたり、誇張されたものであることが多い。
父親との小さな思い出、ちょっとしたかかわりを思い出してみることだ。
一度共に過ごした子どものことを、父親は忘れることはない。
父親をもう一度見直すということはあなた自身を考えることなのだ。
父親ができそこないだろうが、滅多に顔を合わさない存在だろうが、求めずにはいられない。
必要なのは、あなたの父親に起きていたことを、共感的に理解することなのだ。
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