父親の役割とは
「父という病」という本について以前レビューを書いた事があるのですが、「父親の役割」について考えた場合、この本が思い浮かびます。
精神科医であり作家である著者の文章は、非行少年や被虐待児童など様々な子どもたちの問題に取り組んできた背景をうかがわせるリアリティのあるものです。精神科医としての知識も盛り込まれており、文章に医学的な説得力も感じます。
文章が上手なのだと思います。「家族とは」「子育てとは」「非行とは」というコアな問いに押し付けがましくなく、心に刺さる文章で書かれています。
著者は父親の役割について、「母親からの解放者」と本の中で述べています。生物学的に、父親は母親ほど子どもに必要とされていません。まして社会はますます家庭内の父親を影の薄い存在へと追いやる構造になっています。
そのような中、母親のサポートをする父親には、未知の世界へ子どもを誘う役割が求められます。母親の愛情がこもった温室から、現実の社会へとチャレンジさせるのです。そこには力強い父親像が必要です。かつて外敵から家庭を守る役割があった父親は、恐怖の対象としての側面があるそうです。
この恐怖の対象としての側面が、子どもを自立へと導くのだそうです。子どもは大人に成長する中で父親を愛し、ライバル視し、理想とし、そして距離をとるようになります。子どもが自立して社会に適応できるように遊びや創造性や厳しさをもってうまく家庭から解放してやる役割が、父親にはあるのです。
この本を手に取る人は、私のように「子どもとの関係」を意識したお父さんが多いと思いますが、本書を読むうちに自分の「父親との関係」をも意識し始めます。子どもとの「これから」のために買った本ですが、父親との「今まで」を回想してしまいます。
祖父、父親、自分、子ども、孫など、世代を超えて絶えず問われる「父親とは何か」「父親の役割とは」について解を得られる内容になっています。読んだ後は気分が晴れます。
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