思いやりを育む方法とは(その1)
私はよく「思いやり」についてコラムを書いている。その内容は主に「『思いやり』のような漠然としたものを、どうやって相手に育んだらいいのか」という内容である。確かに道徳的観点から、思いやりを育んだ方がいいとも思う。思いやりを育むことが社会的に万人のためになるとも思うし、それが世の中のあるべき方向なのではないか、とも思う。が、前提として、私は思いやりをどちらかというとモラルの観点から「育んだ方が良い」と言っているのではない。
どちらかというと、個人のメリットとして、思いやりを育んだ方がいいと言っているのだ。思いやりを育んだ方が、自分にとって都合のいい人生を送れるようになる。それは、社会的なメリットとセットになっているのだ。社会を味方につけた方が、個人的なメリットも上がるであろうし。社会を味方につけるということは、社会的なメリットを示さなければならない。で、それは個人的なメリットとも密接に関わっていることなのだ。言ってしまえば、「思いやりを育むことはお金儲けにもなりますよ」ということだ。そのくらい、思いやりを育むことは俗人的なメリットなのだ。
情けは他人の為にするべきなのではなく、巡り巡って自分の為になるからするべきなのだ。同じように、思いやりを育むという行為も、近視眼的に見れば、自分以外の他人や社会のためにするものであり、「自分は損をするのではないか」という思いを抱かせてしまうのだが、そうではない。社会的なメリットというのは、最終的にはそれをもたらした個人に帰結する。
なぜなら一人一人の個人とは社会と結びついているからだ。社会という集団は、個人の集まりが作っているからだ。政治家も、プロスポーツ選手も、学校のクラスの人気者も、どれも、集団からの人気があるから、いい思いをできるのだ。社会にメリットをもたらすことで得られる名声は、それをもたらした個人に巡ってくるものなのだ。
だから、お釈迦様のような広い心で思いやりを見るのではなく、もっと個人的なエゴとして思いやりを見て欲しい。決して肩肘を張って育むものではないのだ。心が広くなければ、人間としての心がなければ、できないものではない。誰でもできるものなのだ。面倒臭がりで、やる気がなくて、臆病で、体が弱くて、覇気がなくて、自分のことしか考えていられない人。そんな人でも育めるもの。それが思いやりなのだ。どんな人間にも再現可能な、実践的なものなのある。
さて、思いやりを育むにはどうすればいいのだろうか。思いやりと言われると、あまりにも漠然としていないだろうか。だいたい、思いやりとは目に見えるようなものではない。「作ってみなさい」と言われて、「はい、分かりました」と作れるものではない。例えば、工作であれば、見よう見まねで作ることができるだろう。友達が作ったものを真似て、先生が作ったものを真似て、教科書に載っているものを真似て、自分で作ることができる。目で見たり、手で触ったりできるものは具体的なために、再現性が高いのである。
けれど、思いやりには実体がない。頭の中にだけあるものである。目で見ることも、手で触ることもできない。私は、こんな実体のない思いやりを育む方法として、ビジネスの世界から手法を取り入れればいいのではないかと考えている。ビジネスの、特にクリエイターの世界から取り入れようと考えている。どうしてクリエイターの世界から取り入れるのか。思いやりと、クリエイターの世界は、実は似ているからだ。どのように似ているのか。それは、実体のないものを作り出している点で似ているのだ。
例えば映画監督。クリエイターだ。映画製作の下流では、大勢の人間が機械的に作っている部分もあると思う。けれど、コンセプトを考えるような上流では、実際にある具体的なものを作り出しているわけではない。何もないところから、コンセプトと言われる実体のないものを作り出しているのだ。これは、思いやりを育むことと似ていないだろうか。どちらも実体のないものを作っている点で似ているのである。だから私は、クリエイターの仕事である「アイディアを出す」という行為が、思いやりを育むことに似ているのだと思う。クリエイターはどうやってアイディアをひねり出しているのか。人気クリエイターは、どうして万人に受け入れられるような作品を生み出すことができるのか。そこに、他の人が真似られるような再現性の高い法則はあるのか。それが、思いやりを育むために必要な視点なのである。
さて、前書きはこのくらいにして、結論を出そう。思いやりを育む方法として、私はアナロジーを利用することをお勧めする。思いやりという実体のないものを作り出そうとする場合、同じく実体のないアイディアを作り出しているクリエイターの世界から、アナロジーという考え方を拝借することができる。
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